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それではまずラーメン業界の現実を見ていきましょう。
1.非常に短い平均寿命
皆さんは、最近のラーメン店ビジネスの平均寿命が何年くらいか、ご存じでしょうか?
既に、統計データで捉えられている新規に開業する店舗の1年以内の閉店率(42~3%)と3年以内の閉店率(72~3%)より、当社独自に計算した結果、下図1の様に、平均寿命は約2.4年でした。
平均寿命が非常に短い原因の1つは、単純に言えば、売上が上がらず、利益が出ていないことで、しっかりと儲かっていれば、こんなに寿命が短いことはないはずです。
計算方法
1年目と3年目の閉店率から近似曲線を作成し、2年目の閉店率を算出し5,7,9,11,13,15,17年の残存店舗数を予測して、プロット間の面積を計算する。
面積を店舗数初期値で割ると、平均寿命は、約2.4年となる。
2.店舗数減少に歯止めが利かない
まずは、下のグラフを見ていただきたい。
恐ろしい店舗数減少の実態がお分かりいただけるのではないでしょうか。
この現象は、ラーメン店ビジネスだけにとどまらず、他の飲食ビジネスも同様で、うどんそば店は、もっと厳しく、同じ期間に店舗数が25%も減少しています。
ラーメン店は、10年で、店舗数は約16%減少で、年平均1.6%の減少率になっています。
3.ラーメン店は儲かり難いビジネスになってしまった!
20~30年前は、ラーメン店は誰が始めても非常に儲かりやすいビジネスだと言われていました。
その頃は、外食産業間の競争も厳しくなく、外食産業全体の市場規模も右肩上がりで、伸び続けていました。
ところが、インターネットの急速な進化により、あらゆるビジネスの競争原理が根底から崩され、誰でも簡単においしい店かどうかの判断が、店舗に行かないで、食べてみなくても、多くの人たちの評価に基づくグルメサイトを見れば、簡単に分かってしまうようになりました。
グルメサイトの発達で、日本全国の色んな飲食店の点数が付けられ、誰にでも順位が簡単に分かるようになりました。すると人気店とそうでない店の差別化ができてしまい、以前であれば、まずまずの店舗とか、普通の店舗でもやっていけたのが、優秀な店しか生き残れなくなりました。
これは、スポーツの世界に例えれば、以前は県大会とか、国民体育大会で優勝すると話題になっていたのが、今では、オリンピックに出るクラスでないと話題にならなくなってしまったことと同じで、インターネットの急速な発達により、ビジネスの世界の勝ち方が全く変わってしまいました。
その結果、最近ではラーメン店は下記のTKCのデータが示すように、非常に儲かり難いビジネスになってきたと言わざるを得ません。
全調査数 | 黒字企業 | 欠損企業 | |
---|---|---|---|
件数 | 229 | 62 | 167 |
同左率% | 100 | 27.07 | 72.93 |
従業員数 | 5.8 | 5.4 | 5.9 |
売上高 | 29,801 | 32,052 | 28,966 |
同左率% | 92.98 | 100 | 90.37 |
変動費 | 10,321 | 10,223 | 10,358 |
同左率% | 34.63 | 31.9 | 35.76 |
固定費 | 19,970 | 20,363 | 19,824 |
同左率% | 67.01 | 63.53 | 68.44 |
利益 | -490 | 1,465 | -1,216 |
全調査数 | 黒字企業 | 欠損企業 | |
---|---|---|---|
件数 | 146 | 61 | 85 |
同左率% | 100 | 41.78 | 58.22 |
従業員数 | 13 | 11.4 | 14.1 |
売上高 | 70,368 | 70,037 | 70,605 |
同左率% | 100.47 | 100 | 100.81 |
変動費 | 23,862 | 22,838 | 24,598 |
同左率% | 33.91 | 32.61 | 34.84 |
固定費 | 46,500 | 45,081 | 47,519 |
同左率% | 66.08 | 64.37 | 67.30 |
利益 | 4 | 2,117 | -1,511 |
全調査数 | 黒字企業 | 欠損企業 | |
---|---|---|---|
件数 | 100 | 43 | 57 |
同左率% | 100 | 43.00 | 57.00 |
従業員数 | 24 | 22.1 | 25.4 |
売上高 | 147,543 | 153,253 | 143,236 |
同左率% | 96.27 | 100 | 93.46 |
変動費 | 49,551 | 48,921 | 50,026 |
同左率% | 33.58 | 31.92 | 34.93 |
固定費 | 97,281 | 99,998 | 95,231 |
同左率% | 65.93 | 65.25 | 66.49 |
利益 | 711 | 4,333 | -2,021 |
以上のTKCのデータより明確に分かることは、店舗規模が小さいほど黒字企業が少ない、すなわち利益が出にくく、店舗規模が大きいほど黒字企業が多く、利益が出やすいことです。
これから判断できることは、ラーメン店市場では、どの規模においても半数以上が赤字店舗であり、規模の小さい店舗ほど赤字率が高く(約73%)、喫茶店市場、または飲食ビジネス全体の市場、あるいは他のあらゆるビジネス市場において、市場の寡占化が進み、生産性が高く、経営資源の豊富な規模の大きい店、規模の大きい会社の方が生き残りやすいという事です。
4.新規開業者の閉店率が非常に高くなってきた原因の数々
飲食店の開業において、新規開業者が理解していなければいけない重要な要素は次の3項目で、
- マインド・セット
- スキル
- マネッジメント
です。
1.マインド・セット
1つ目はマインド・セットで、精神面の重要さです。
最近、新規にビジネスを始める場合に、見落とされているのが、精神面の大切さです。
私は多くの麺学校の生徒さんを最近見て感じるのは、この部分の欠落で、この人はまず無理だろうと思われる人が非常に増えています。
ビジネスはシステムなので、必ず、インプットとアウトプットがあり、その途中で様々な要素が連なっています。
そして、インプットとアウトプットの間には、必ずタイムラグがあります。
人間の体もシステムです。例えば、今、水を飲んでも、すぐにトイレに行くかと言えば、そうではなく、ある一定の時間の後、トイレに行くようになります。
ビジネスもまったく同じで、今日から商品力を上げたり、今日からサービス力を上げても、今日からすぐに売り上げが上がるのではなく、必ず、数日、数カ月、場合によっては数年というタイムラグがあります。
要するに、システムである限り、インプットとアウトプットの間には、必ず、ライムラグがあり、システムが複雑になるほど、タイムラグが大きくなるということです。
そのために、ビジネスを行う人に要求されるのは、情熱とか忍耐力とか、強い精神力を要求されます。
私はこれらの精神力に関する部分をビジネスの成果として、私の著書「不況でも繁盛するラーメン・うどん・そば店の教科書」で下記の様に書き留めています。
「ビジネスの成果=責任×夢×情熱×集中力×意志力×経験×集中力×忍耐力」
以上はすべて、マインド・セットすなわち、精神面に関することで、今の時代ほど、マインド・セットの重要さを理解する必要があると思います。
2.スキル
2つ目に重要な要素は、スキル(技術面)です。
新規開業者の多くは、商品が完成していないのに、物件を探している人がほとんどで、物件を確保し、内装、外装を施し、建物の開店準備はできても、肝心な商品がまだ完成していません。
当然、在り来りの商品であったり、プロ中のプロのレベルには達していないです。
インターネットが発達する前は、そこそこのレベルでも何とかなっていましたが、これだけインターネットが発達し、どんな情報でも瞬時に入手できるようになれば、プロのレベルでも役に立たず、プロ中のプロのレベルに達していないと、やっていけない時代になりました。
新規に開店して失敗する人の多くは、開店時に未熟な商品やサービスを提供してしまい訪問したグルメサイトの専門ブロガーに3.0点付近のスコアを付けられ閉店に至る人たちが多いです。
新規に開店すれば、最低3.3点付近の点数は絶対に必要です。
最初に、完全に商品を完成させてから、ビジネスモデルのシミュレーションで、何度もお金の流れ(得られる利益)を計算し尽くし、それから、見合った物件を探すという順序が重要です。
3.マネッジメント
最後に重要なテーマがマネジメントで、利益が出てキチンと経営できるビジネスモデルを作り上げることです。
幾ら技術が優れていても、経営能力がなければ、お店は成功しません。
例えば、博多一風堂が創業34年で世界の一風堂になり、国内で150店舗、海外で100店舗、展開できているのは、マネジメント力が備わっているからです。
これだけの店舗が、国内、海外で利益を出し続けられる仕組みの構築が、ヒト、モノ、カネを伴ったマネジメントです。
従って、マネジメントは総合力でもあります。
このように、多店舗展開を目指す場合は、利益が上がらないと再投資ができません。
再投資とは、人材への投資、商品開発への投資、サービスレベルを上げるための投資、物件への再投資等々、ヒトとモノへの再投資は常に行い続けていかないと、勝ち残っていけません。
このように事業を円滑に進めていくためには、常にあらゆる必要な項目への再投資を行い続けなければいかず、現在から未来にかけては、ITとかAIへの投資を続けていくことは必須です。
従って、お客様を最高に喜ばせ、たくさんお金を使っていただき、最大の利益を上げ続けるビジネスモデルを作り上げることは、経営者にとって一番重要な仕事であると言えます。
最近、新規開業者の閉店率が非常に高いのは、上記1~3の理解ができていなかったり、準備ができていないために、早期に閉店に追い込まれています。
しっかりと儲かり、利益が十分出ているとそんなに簡単に閉店はしないと思います。閉店の一番の原因は利益が出ていない、すなわち、儲かっていないのです。
5.ライバルの真似をしない、ライバルとは絶対に競争しない(ビジネスにおけるブルーオーシャンの理解)
新規にビジネスを始める多くの人たちの陥る多くの失敗が、他店を真似することです。
以下は、博多一風堂のホームページに掲載されていた文章で、これは多くのビジネスを行う人たちにとって、大変な参考になるはずです。
歴史とこれから 博多一風堂
博多一風堂が産声を上げたのは1985年10月16日。
「ラーメン業界に一陣の風を巻き起こす」カウンター10席だけの小さな店「一風堂」の店名に込められた熱い想いと共に提供される1杯は「豚骨ラーメン」の常識を覆す。
店主・河原成美が作り上げたのは、豚の臭みを除去したマイルドな味の豚骨ラーメン。まるで木工彫刻家のアトリエのような、木をふんだんに使った洒落た店内は隅々まで綺麗に磨き上げられていた。
流れるBGMはモダンジャズ。
心の行き届いた温かい接客は店に活気を呼び込んだ。何もかもが画期的だった店は、それまでラーメンとは無縁だった女性客の支持も集め、博多のラーメン業界に一陣の風を巻き起こした。
以上の様に、一風堂はその頃、たくさんあった長浜ラーメンの店を真似るのではなく、それらとは全く異なる店を作って大成功し、世界の一風堂になりました。
絶対にしてはいけないのは、上図の中心のレッドオーシャンの赤い部分です。
逆にしなければならないのは、お客様のニーズがあり、ライバルと競争のない、ブルーオーシャンの部分だけです。
6.このビジネスはあなたにとって、本当に情熱を持てるビジネスであるか?
多くの新規開業者は、お金に情熱があっても、麺ビジネスに深い情熱を持っている人は少ないのが、現状です。
ビジョナリーカンパニー2のハリネズミの概念で説明している下図の、下記の3項目が重なる赤い部分だけしかしてはいけません。
ビジョナリーカンパニー2では、アメリカで非常に成功した14社を取り上げ、同じジャンルで途中まで同じように成功してきたのに、途中でダメになった会社を比較分析し、その違いがどこにあったのか、調べました。
その結果、分かったのは、以下の3項目に集中した会社だけが非常に成功したという事実でした。
- 情熱を持って取り組めるものだけに集中した会社
- 自分が世界一になれる部分だけに集中した会社
- 経済的な原動力になるものだけに集中した会社
第二章 ラーメンの本質とラーメンの歴史に続きます。