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第三章 製麺機業界の業者と歴史の続きです。
製麺機にはそれぞれ、その会社の価値観、使命、ポリシー、風土、設計者の意図などが反映されている。
設計の分野では、その意図を設計思想と呼んでいる。どのような設計思想で、製麺機を設計するかで、できあがった製麺機は全く異なった製麺機になってくる。
しかし、ほとんどのお客様は、製麺機という名前がついていれば、どの製麺機も同じような麺が作れ、同じような性能で、同じような使い勝手だと思っている方が多い。
ところが、私のような機械の専門家から見れば、設計思想の違いによって、製麺機の外観の形は似ていても、中身は全く異なる。
1.重要な製麺機の見分け方は、その製麺機メーカーの設計思想
メーカーごとに設計思想が異なり、何を優先するかの優先事項が異なり、当社の優先事項を列挙すれば、下記の様になっている。
- 麺のおいしさ
→最優先 - 安全性
→優先 - 使いやすさ
→優先 - デザイン、コンパクト
→優先 - メンテナンスしやすさ
→優先 - 耐久性(壊れずに長持ちするかどうか?)
→優先 - 衛生
→優先 - UL、CE対応
→優先 - コスト
- 作りやすさ
- 設計しやすさ
上記の順序は、当社の開発部門が大切にしている優先順序で、当社は常にこのような設計思想で、製麺機の設計に取り組んでいる。
例えば、設計者の能力が低い場合は、麺のおいしさとか、使いやすさ、メンテナンスのしやすさ、作りやすさ、安全性などは後回しで、いかに自分が設計しやすいかが優先され、非常に使い難い、性能の低い製麺機ができあがる。
反対に、設計者の能力が高く、おいしい麺の製法とか、使い勝手をよく理解している設計者が設計した製麺機ほど、おいしい麺ができて、使いやすく、長持ちする製麺機ができあがる。
従って、そのような製麺機を作るには、ある程度の経験と技術レベルを上げ続けていく努力が欠かせない。
設計者のレベルが低いほど、自分たちの設計がしやすく使い勝手の悪い機械を作ってしまい、設計者のレベルが高いほど、自分たちのことは後回しで、お客様最優先の機械を開発できる。
従って、製麺機を検討する場合、実際に機械を使ってみて、
- どれほどおいしい麺ができるか
- 使いやすいか
- 安全性は優先されているか
- デザインは優れているか
- メンテナンスはしやすいか
- 頑丈に作られているか
- 衛生面はどうか
等々を細かく確認することが大切だ。
買う前にいろんな機械を見比べ、実際に機械を使い比べしてみると、簡単に分かることだ。
2.自店の欲しい麺質ができる製麺機かどうか。
ラーメンの場合は、少加水麺から多加水麺まで、非常に製麺方法の幅が広いのが特徴である。自店が現在どのような麺を作っていて、将来どのような麺を作る可能性があるのか。それを見据えて、妥協なしに欲しい麺質が作れる製麺機を選定することが重要だ。
ラーメンの麺の中には、家系ラーメンの様に、圧延カット時に幅と厚さが逆転する逆切り製法で麺を作っている。が、逆切りを行おうとすると、非常に厚い麺生地を無理やり細い切り刃の中でカットするので、切り刃に大きな力がかかる。これを考慮した機械でないと逆切りの麺が切れない。
これは特殊な事例かもしれないが、自家製麺を始める時には、妥協せずに納得するまでサンプル麺を作ってもらう。製麺機の導入の時に、そのレシピをもらえるような製麺機メーカーから製麺機を導入すれば、思っていたような麺ができないということはありえない。併せて、そのような製麺機メーカーであれば、新しい製麺のレシピも教えてもらえる。
3.自店にピッタリの能力を持った機種であるか?
一口に製麺機と言っても、サイズや種類など、様々なタイプのものがある。店の1日あたりの食数によって、選定するべきサイズは当然変わり、最適なサイズの製麺機を選ぶことが、店の省力化に繋がる。
大きすぎてはスペースやエネルギーの無駄になり、小さすぎては生産が間に合わなくなってしまうからだ。
製麺機は必要な能力に合わせて、機種やサイズが大きく変わる。例えば、100席のラーメン店が1時間当たり100食の能力の機械を指定する人もいる。もし繁盛しなければこの能力でも間に合うが、超繁盛店になれば、1日中麺を作り続けなければならない。機械の初期投資コストは安くなるが、日々の人件費は高くつくので、結局1食当たりのコストが割高になってしまう。
最低限必要な能力より、少し余裕を持ったサイズの機械を選定した方が、後々トータルコストが安くあがることが多い。ちなみに、製麺作業に専門の人手を当てられる場合は別だが、それ以外の場合は、機械の能力は通常、1日に必要な麺量を2~3時間程度で作れるよう設定する。
一般的に製麺機メーカーや販売店はとにかく機械を売りたいので、多少無理があっても気安く「そんなのは簡単にできます」と言ったりする。そのため、どの種類の麺をどのくらいの数量作れるのかを、はっきりさせてから機種を選定した方が賢明だ。くれぐれも自店に見合ったタイプの物を選ぶようにすることだ。
4.導入後も信頼して使える機械であるかどうか?
当たり前のことだが、製麺機を使う側にとって重要なのは、機械を購入するまでではなく、機械を購入してからの話である。購入後のことは大抵、機械を使って初めて分かることばかりだ。ここでは後悔を避けるため、購入した後のことまで考慮した製麺機の選定ポイントをお教えよう。
製麺機を始め、機械類の構造はどの様な機械でもほとんど共通性がある。人間に例えれば、骨格に当たる「フレーム」(骨組み)、心臓に当たる「モーター」、頭脳に当たる「制御部分」(最近はコンピューター搭載機種もある)、手足に当たる「駆動部分」に分かれる。
プロは機械の作り方を見れば、この機械メーカーの考え方と技術レベルがすぐ分かる。
- フレームは古い設計のままで作っているメーカーは鋳物材とか木材、アングル材構想になっており、最近の新しい設計の機械は鋼板の折り曲げ構造、溶接構造が多くなっている。
- 駆動方式はモーター1個でミキサーとかロール、カッター全てを駆動する方式とミキサー、ロール、カッターにそれぞれ別々にモーターが付いているタイプがある。が、当然モーターが1個であれば、モーターが故障した場合、全体が使えなくなる。ところが、モーターが別々に付いていれば、ミキサーのモーターが故障しても、ロールとかカッターは使える。
- 制御部分は新しい設計であれば、徐々にコンピューターを搭載し、古い設計では単にモーターに電源を供給するスイッチが付いているだけだ。しかし、モーター焼損防止のサーマルリレーは絶対に必要だ。
- 駆動部分は麺生地に接する部分で、この部分は衛生のためにはステンレスまたは樹脂製であることが必要だ。ロールに鋳物等を使っている場合があるが、錆の点では決して好ましくない。
以上の様に製麺機メーカーそれぞれのコンセプトとか考え方の違いにより、でき上がって来る機械は全く異なる。コストにこだわり、安全性とか使い勝手を犠牲にしたり、あるいは売れやすくするために、安く作る事を最優先するメーカー、昔からの設計を一切変えないで、古い構造、機構のままで作っているメーカー等々だ。
価格設定もまちまちだ。初めから高い価格設定にして、値引き要求のないお客様には定価に近い価格設定で販売し、無理を言うお客様には大きく値引きするメーカーがある。あるいは当社の様に、原価に近いまっとうな価格設定にして値引き幅を作らず、誰にでも正直に同じ価格で販売するメーカーもある。
私はお客様の顔色を見ながら価格交渉するのが大嫌いで、誰に対しても一切値引きなしの統一した価格にしている。
ロール式製麺機で一番注意しなければいけないのは、
- おいしい麺ができるか
- 安全性
- 使い勝手
- メーカー側の体制
だ。
それでは、“1.おいしい麺ができるか”というチェックポイントについては前々項で述べたので、次に安全性、使い勝手、メーカー側の体制における、製麺機選定の判断基準をお教えしたい。
購入後に後悔しない製麺機の選定には、以下のポイントが抑えられているかどうかだ。
- 操作は楽か?素人でも使いやすいか?
- 安全性は高いか?(特にロール式麺機の場合、ロール安全装置がついているか)
- 機械そのものの見た目、耐久性は良いか?(ステンレス外装か)
- 衛生的な材質で作られているか?(掃除のしやすい、ステンレス・樹脂素材であるか)
- 間口が半間でも搬入・搬出が可能か?(本体の分割搬入が可能か)
- 家庭用の電源で使用可能か?
- 交渉次第で大きく価格が変わらないか?(客によって価格が変わらないか)
- 古くなった機械の完全なオーバーホールが可能か?
- 購入後のアフターフォローが万全なメーカーであるか?
(機械、麺質、経営面についてのサポートが期待できるか) - メンテナンス体制は本当に確かか?(日曜・祝・祭日、365日対応可能か?)
- モーターの保護回路・焼損防止のサーマルリレーがあるか?
(モーターが機能毎に分けてつけられていない場合、どこか1カ所が故障すると全てが動かなくなる)
特に、機械購入後に生じてくる麺質や経営面の悩みを相談できる企業であるかどうかは、メーカーによって大きな差があるのでよく見極められることをおすすめする。
第五章 安全装置と危険性に続きます。