変化に対応するエフェクチュエーション|許容可能な損失の原則

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はじめに

先週のテーマは、永い繁栄のための大本として、未来の予測による戦略構築ではなく、既に自分の持っている要素、強味の有効活用方法の「手中の鳥の原則」でした。

今週のテーマは、エフェクチュエーションの2番目の原則で、「許容可能な損失の原則」です。

一般的に、何か新しいことに取り掛からなければいけない場合、例えば、当社は2020年4月にコロナの影響を大きく受け、多くの外食産業、麺ビジネス同様に、このままでは当社のビジネスが成り立たなくなる可能性が生じたのです。

その時点で、今回のコロナの発生により、今までのような状況には戻らないと直感し、コロナ後の新しい世界に向けて、新しい取り組みをしなければいけないことに気づいたのです。

その結果、2つの戦略を立てたのです。

1つ目がモノ作りカンパニーで、当社の持っている技術力を活用し、世の中で困っているテーマを解決する事です。

その結果、生まれたのが今までになかった、半熟茹で卵の自動殻剥き機だったのです。

2つ目がメデイアカンパニーを目指すことで、当社の持っている麺ビジネスに関するノウハウを生かしたオンラインイベントとオンラインセミナーの開催でした。

コロナ発生後は、海外出張が全く出来なくなり、海外へのお客さまに向けたオンラインイベントを開催することで、製麺機の販売に成功したのです。

このように、既に自社で持っている技術やノウハウ等の自社の特徴を活用し、問題を解決する手法が先週のテーマの「手中の鳥の原則」でした。

もし新しく何かを始め失敗した場合、最高どれくらいの損失が発生するのかを予測して、その発生する損失が十分に自分の力でカバー出来るのかどうかを確認し、カバー出来るのであれば、損失を覚悟して取り組むのが、今回のテーマの「許容可能な損失の原則」なのです。

「許容可能な損失の原則」とよく似た考え方で、4つのリスクという概念があります。

飲食ビジネスにおける4つのリスク(損失)

  • 第1に負うべきリスク、すなわち事業の本質に付随するリスク
  • 第2に負えるリスク
  • 第3に負えないリスク
  • 第4に負わないことによるリスク

第1番目の、飲食ビジネスにおける「負うべきリスク」として、食の安全性、衛生の問題で、食中毒等のリスクが付きまとい、飲食ビジネスを行なう限り、避けることが出来ないリスクです。

第2番目の「負えるリスク」は、例えば、新人の採用において、面接だけでは十分にその人の人間性までを理解するのが難しい場合、仮採用し、仮採用の期間中に残って貰うかどうかを判断すれば、もし、不採用になっても、その間に支払う給与は、経営に大きな損害を与えません。

「負えるリスク」は、失敗しても多少の損失ですむことを指します。

第3番目の「負えないリスク」は、家賃の高い良い場所に出店して、予想外に大繁盛した場合、その繁盛の程度を見ていた大手の資本力のある企業が、近隣にもっと競争力のある強い店を出店し、泥沼の価格競争に陥った場合は、負えないリスクが発生する可能性が高いので、大手の強い企業と競争になるような可能性のあるような場所は、負えないリスクに相当します。

第4番目の「負わないことによるリスク」の1つとして、あらゆる事業で避けて通れない課題の一つが人材の育成、後継者の育成です。

例えば、多店舗展開等、ビジネスを伸ばしていこうとした際、優秀な人材の採用や教育等に費用や時間をかけず、急激な店舗展開をしてしまった場合、店舗だけが出来て、運営する人が育たないために、非常に危険な状態に陥ります。

人に対する投資を負わないことによりリスクが発生するのです。それは、将来の大きなリスクになります。

以上のように、リスクには4種類があり、多くの人たちはリスクを避けて何もしない結果、何も得られないだけではなく、得るものが無くなるのです。

許容可能な損失(affordable loss)の原則

ビジネスの現場で今回のコロナのような不確実性の高いアクシデントの中、事業を進めるときは、まず目標を設定してから、それを達成していくために最適な計画を立て、その計画通りに実行していく「コーゼーション(因果論)」の方法を取ることが一般的です。

そして、行動の結果として、投下した資源以上の大きなリターンが期待できるならば実行すればよいと考えるのです。

複数の行動の選択肢がある場合にも、最も期待利益の大きいもの、つまり最も成功しそうなものや儲かりそうなものを選ぶべきだと考えられます。

それとは正反対に、まず手持ちの手段(資源)に基づき、「何ができるか」の具体的な行動のアイデアを生み出すという特徴を持つエフェクチュエーションに基づく意思決定の方法があります。

従って、私が2020年4月のコロナの時期に下した意思決定の方法は、エフェクチュエーションの概念を知らなかったのですが、まさにエフェクチュエーションであったのです。

一般的に、熟達した起業家は、不利な面を十分に認識したうえで、避けられるならば絶対にリスクは取るべきではない、と考えていたのです。

予期せぬ事態は避けられないことを前提としたうえで、最悪の事態が起こった場合に、起きうる損失をあらかじめ見積もり、それが許容できるならば実行すればよい、という基準で意思決定を行っていたのです。

これがエフェクチュエーションを構成するもう1つの思考様式である、「許容可能な損失(affordable loss)の原則」です。

従って、この思考様式は、まさに飲食ビジネスにおける4つのリスクの考え方に相当するのです。

起業家が、どこまでなら損失を許容できるかの推定に基づいて意思決定をすることで、予測に頼らなくても済む状態を作り出すことができます。

許容可能な損失を計算する場合には、現在の財務的状況と、最悪のケースに備えた心理的コミットメントの評価を知るだけでよいのです。

 

「許容可能な損失」の範囲で行動する利点

  1. 新しいことを始める心理的ハードルが低くなる
  2. 成功するかどうかの予測に無駄な労力を費やす必要もなくなる
  3. 再度別の方法でチャレンジすることが可能になる

許容可能な損失の基準で行動する限りにおいては、過去の失敗経験はむしろ、後の成功確率を上げてくれる学習機会と見なせるようになります。

先行する失敗経験からの学びが、その後の成功をもたらしたと考えられます。

「本当に必要な資源はどれくらいか」を考える

最初に投入する資源をできるだけ小さくする

「本当に必要な資源はどれくらいか」という視点であり、着手する時点で最初に投入する資源をできるだけ小さくできないか、と考えること。

最初から大きな資源をそこに投入して、失敗が許容可能な損失の水準を超えてしまうことは、避けなければなりません。

できるだけ最初の一歩を小さく踏み出せないかを工夫することで、行動は許容可能な損失の範囲にとどまりやすくなるでしょう。

できるだけ一歩の幅を小さくする

踏み出す一歩の歩幅を小さくするための工夫

  • 新たな資源投入を必要としない行動から着手する
  • できるだけ一歩の幅を小さくする
  • 新たな資源投入が必要となるタイミングを延期する

設備投資など、何らかの避けられない投資が発生した場合、できるだけ一歩の幅を小さくできないか、と発想することが重要です。

(例)「固定費を変動費化できないか」
たとえば製造業であれば、ものづくりのための機械の購入や工場の建設、サービス業であれば店舗の開業など、 最初に大きな固定費をかけなければ事業に着手できない、と考える人もいるかもしれませんが、成果が不確実ななかで、そうした投資が許容可能でない損失につながる恐れがあるならば、なるべく避けるべきだといえます。

「自分は何を失っても大丈夫か」を考える

許容可能な損失の範囲で行動するためのもう1つの重要なポイントは、

  • 自分は何を失っても大丈夫か
  • 逆に何を失うことを危険だと思うのか

を自覚したうえで、失うことを許容できない資源をなるべく危険に晒さないように着手することです。

損失の許容可能性は自信や動機の強さに連動する

モチベーションや熱意が強く、許容可能な損失が大きいことは、その分一歩を踏み出す際の歩幅が大きくなり、より速く進むことができるという意味で、確かに望ましいことといえるでしょう。

しかし、それ以上に重要になのは、自分自身の許容可能な損失を認識したうえで、その範囲を超えないように、歩幅をコントロールした一歩を踏み出すことです。

小さな歩幅で一歩を踏み出すことが、エフェクチュエーションのプロセスを前に進めるうえでは何よりも重要です。

許容不可能な損失はパートナーシップの可能性を示唆する

どのような種類の資源を失うことを危険だと思うかが人によって大きく異なるという事実は、その後のパートナーシップの可能性を示唆するという意味でも重要です。

損失を許容できる資源が異なる二者がパートナーシップを構築することができるならば、新しい事業の立ち上げに伴う資金と時間の損失のいずれもが許容可能な範囲に収まる可能性は高くなります。

つまり、自分にとって許容できない損失が何かを自覚し、それを許容できる誰かをパートナーとすることができるのならば、不確実性に伴うマイナス面の許容可能性をより大きくすることができるのです。

「行動しないことの機会損失」も考慮する

起業家は、チャレンジがうまくいかない場合に失われるものだけでなく、そのタイミングで行動しないことで逆に失われてしまうもの(機会損失)も考慮している可能性があります。

もし後者の機会損失のほうが大きいのであれば、たとえリスクを伴うとしても思い切って行動することのほうが、より損失可能性を低くする、合理的な意思決定といえるでしょう。

この概念は、飲食ビジネスにおける4つのリスク(損失)の4つ目の負わないことによるリスクに相当します。

まとめ

小さくても行動を起こすことで初めて得られる成功や失敗の経験が、起業家にとって重要な学習機会となる

期待通りの結果が得られなくとも、許容可能な損失の範囲で行動する限り再チャレンジが可能になるため、上手くいくと期待したやり方が機能しなければ、方法を修正して、次のチャレンジに活かしていくことができます。

手持ちの手段(資源)の創造的な活用を促し、 無駄を減らすことができる

許容可能な損失という基準に基づく行動では、損失可能性を小さくするためにすでに手にしている手段(資源)を最大限に活かして、本当に必要な資源のみを新たに調達しようと発想するでしょう。

その結果、無駄な投資が抑えられるのと同時に、起業家が持つ資源の制約を反映した、高い創造性が発揮される可能性があります。

許容可能な損失に基づく意思決定は、「成功するかどうか」や「儲かるかどうか」という利益以外の基準で、本当に自分にとって重要な取り組みを選択することを可能にします。

期待利益に基づく意思決定が、成功見込みやリターンの大きさといった、起業家自身にとって外的な要素を考慮するのとは対照的に、許容可能な損失の評価は、起業家が自身の内的な要素や価値観を改めて振り返る意思決定になる可能性があります。

だからこそエフェクチュエーションを活用する起業家は、他の誰もが採用したことのない新たな行動を、合理的に選択していくことが可能になるのです。

先週に引き続き、今週も非常に難しいテーマでした。

私は麺学校を通じて、多くの生徒さんと触れ合ううちに、最近はリスクの取りすぎよりも、リスクを避ける人たちが多いことを理解しています。

ビジネスをやる以上、リスクから逃れることは出来ません。

そのリスクをどのようにコントロールするかという概念が今回、皆さまと共有しているエフェクチュエーションです。

現在、日本の麺ビジネスにおいて非常に成功している「丸亀製麺」の粟田社長、「博多一風堂」の河原会長も、過去、とてつもなく、大きなリスクを取り続けた人たちばかりです。

そして、両者とも現在も大きなリスクを取り続けて、ビジネスを大きく伸ばしているのです。

私の場合は、もともと川崎重工で技術者をしていたので、リスクを取らずにサラリーマン人生で過ごすことも出来たのです。

リスクを取り、起業してどれだけたくさんの失敗をして、周りの人たちに助けられたか分かりません。

この付近の話はエフェクチュエーションの5つの思考様式の3番目以降に相当します。

  1. 「手中の鳥の原則」
  2. 「許容可能な損失の原則」
  3. 「クレイジーキルトの原則」
  4. 「レモネードの原則」
  5. 「飛行中のパイロットの原則」

尚、これらの思考様式は、単独ではなく、複雑に絡み合って成り立っているのです。

最期に、当社の存在は、麺ビジネスを志す皆さまにとっては、麺ビジネスのインフラです。

当社の有効活用は、皆さまにとって、まさに「手中の鳥の原則」の原則に当てはまるのです。

既に、国内だけでなく、海外でも当社を有効活用された多くのお客さまが麺ビジネスで成功し、チェーン化したり、製麺設備を次々と拡張しています。

これからは、麺ビジネスのインフラとして、当社の有効活用が皆さまのビジネスに大きな、良い影響を及ぼし始めています。

今年もシッカリ、当社を活用して下さい。

引き続き、皆さまには有益な情報をお届け致します。

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藤井 薫(ロッキー藤井)

株式会社大和製作所、株式会社讃匠 代表取締役。
令和5年 秋の叙勲にて「旭日単光章」受章。

1948年5月、香川県坂出市生まれ。国立高松工業高等専門学校機械工学科卒業。川崎重工株式会社に入社し、航空機事業部機体設計課に配属。その後、独立し、1975年に大和製作所を創業。

過去48年以上にわたり、麺ビジネスを一筋に研究し麺ビジネスの最前線で繁盛店を指導。麺専門店の繁盛法則について全国各地で公演を行う。小型製麺機はベストセラーとなり、業界トップシェアを誇る。
「麺店の影の指南役」「行列の仕掛け人」として「カンブリア宮殿」「ありえへん∞世界」「スーパーJチャンネル」等、人気TV番組に出演するほか、メディアにも多数取り上げられる。
また、2000年4月にうどん学校、2004年1月にラーメン学校とそば学校を開校し、校長に就任。

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