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はじめに
今回は、マーケティング5.0は、情報通信技術(IT)の恩恵を受けることができる人と、できない人の間に生じる格差即ち、IT格差とマーケティング5.0との関連について、深く探求していきます。
過去、シンギュラリティが議論された時期がありました。
念のために、シンギュラリティ(Singularity)とは、自律的な人工知能(AI)が人間の知能を超える転換点を指す仮説です。技術的特異点とも呼ばれます。人工知能研究の世界的権威であるレイ・カーツワイル氏が2045年にシンギュラリティーに到達すると予測していることから、2045年問題とも呼ばれています。
現在、世界中でChatGptを中心とするAI技術が猛烈な速度で進化を遂げています。私も時々使いますが、使うたびに進化を遂げていっているのが良く分かります。
デジタル・デイバイド率を判断する分かり易い指標は、総人口対インターネット人口です。2024年の世界の人口とインターネット人口はそれぞれ、下記の図の通りです。
※デジタル・ディバイドとは、インターネットやパソコン、スマホなどのデジタル技術を「使える人」と「使えない人」に生まれる格差のこと
世界と日本国内の年代順のインターネット普及率
人口、普及率 | 単位 | 2000 | 2005 | 2009 | 2014 | 2022 | 2024 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
世界総人口 | 億人 | 61 | 67.56 | 69.16 | 73.54 | 80 | 82 |
インター ネット人口 |
億人 | 2.755 | 10.2 | 20.0564 | 29.2 | 50.7 | 55 |
普及率 | 4.5% | 15.1% | 29.0% | 39.7% | 63.4% | 67.1% | |
日本総人口 | 億人 | 1.268 | 1.278 | 1.276 | 1.273 | 1.2203 | 1.2488 |
インター ネット人口 |
億人 | 0.2045 | 0.8529 | 0.9408 | 1.0018 | 1.0168 | 1.0704 |
普及率 | 17.10% | 66.80% | 78.00% | 82.80% | 84.90% | 85.71% |

これを見て分かるのは、日本国内での凄まじい普及率、それに追随している世界でのインターネット普及率です。
これから判断しても、若い人だけでなく、高齢者もインターネットに親しんでいるデジタル・デマンドの人口の急増です。
注釈:デジタル・デマンドは、人々がデジタル商品やサービスをどれだけ欲しがっているかのことです。
世界と日本とではまだ約20%の差がありますが、これも早急に差が縮小することが予想されます。
以上より、今回のテーマであるデジタル・ディバイドは、日本国内においても、海外においてもそんなに大きなマーケティングの障害にはならないことが考えられます。
それでは、いよいよ本題に入ります。
まず、日本国内において、デジタル・ディバイドの対象になるのは、私と同じような団塊の世代(ベビー・ブーム世代)の大半とX世代の一部です。
以上の様に、お客さまに当たるユーザー側のデジタル・デマンドの要求は急速に高まっていますが、肝心のお客さまに応対している企業側の方が、デジタル・ディバイド状態の企業が多いのではと思います。
テクノロジーをパーソナルに、ソーシャルに、そしてエクスペリエンシャルにする
テスラのイーロン・マスクやアリババのジャック・マーが、6年前の2019年に世界人工知能大会の場で「人間対マシン」について議論しました。
イーロン・マスクは、ビル・ジョイと同じく、AIが人間文明を終わらせる恐れがあるという懸念を表明し、一方、ジャック・マーは、人間はその感情能力ゆえに常にマシンよりはるかに優れていると主張したのです。
あれから6年経ち、AIの進化は目覚ましいものがありますが、この論争もほぼ決着を見せているようです。
多くの人は、雇用の喪失から人類の消滅まで、AIの脅威を警戒していしたが、その危険は過大評価されているのではないかと思っています。
われわれはずいぶん前に、なにもかも自動化されたスマートホーム、自動運転車、自動製造の3Dプリンターなど、AIを利用した未来のオートメーションを想像しましたが、オートメーションはそうした製品を限定的な試作品という形で利用できるようにしただけで、主流になることはできていないだけではなく、まだ目途が立っていないのです。
※エクスペリエンシャルは「実際に体験することによって得られる知識や気づき」
デジタル・ディバイドはまだ消えていない
2024年現在、世界のインターネット・ユーザーは55億人に達し、ロンドンに拠点を置く調査会社、ウィーアーソーシャルの推定によると、この数は1日100万人のペースで増え続けているのです。
したがって、5年後の2030年には、世界全体で80億人以上のインターネット・ユーザーが存在し、これは世界の人口の90パーセント以上に相当します。
接続性の基本的な障壁は、もはやインターネットの利用可能性や接続可能性ではなく、世界の全人口に近い人々が、すでにモバイル通信ネットワークがカバーしている地域内で暮らしているのです。
例えば、東南アジア地区で人口が一番多く、発展が著しいインドネシアでは、ジョニー・プレート通信情報技術大臣によると、世界第4位の人口を持つこの国は、1万7千を超える島々に住む人々に高速インターネットを提供するため、
陸上と海底を合わせて21万6千マイル〈約35万キロメートル〉以上の光ファイバー・ネットワークを築いているのです。
そのため、今日における接続性の最大の課題は、アクセスにかかる費用が高いことと使用例が単純であることです。
それに、インターネットの利用は均等に分布してはいないので、新規ユーザーのほとんどが新興市場の人々なのです。
これらの市場はモバイルファーストで、しかもモバイルオンリーであることが多く、手頃な価格のモバイル・デバイス、軽量のOS、安価なデータプラン、それに無料のWi-Fiスポットが、「次の10億人のユーザー」セグメントを獲得するための重要なドライバー〈促進要因〉となっています。
人と人を接続することに加えて、インターネットはデバイスとマシンも接続し、いわゆるモノのインターネット(IoT)が次の課題です。
これは家庭でも産業の場でも、スマート計測や資産追跡など、監視のために利用でき、デバイスとマシンが互いに通信できるIoTを利用すれば、人間が操作しなくても、あらゆるものを遠隔で自動的に管理できます。
したがって、最終的には、IoTが自動化の根幹になり、一方、AIはデバイスやマシンを制御する頭脳になるでしょう。
2030年には、ネットワークに接続されたIoTデバイスが何千億台も存在しているだろうと、テクノロジー企業は予測していますが、実現には時間がかかります。
5Gは現在の4Gネットワークより最大で100倍高速で、10倍のデバイスをサポートするので、IoTにとって4Gよりはるかに効率がよいのです。
ユビキタスに近い人と人、マシンとマシンの接続性は、フルデジタル経済のための基本的なインフラです。
それはオートメーションと遠隔製造を可能にし、従来のサプライチェーンを不要にします。
買い手と売り手の間のシームレスなインタラクション〈相互作用〉、トランザクション〈取り引き〉、フルフィルメント〈遂行〉を可能にします。
職場環境では、従業員の協調を促進し、ビジネスプロセスをより効率的にし、最終的には従業員の生産性を向上させます。
しかし、フルデジタルのインフラは、フルデジタルの社会を約束するわけではなく、デジタル技術は、主として基本的な通信やコンテンツ消費のために使われており、より高度な応用は民間部門においてさえまだ少ないのが現状です。
デジタル・ディバイドを埋めるためには、顧客側だけでなく、企業と顧客の両方がテクノロジーの導入を増やさなければならないのです。
これが現在の盲点であり、デジタル・インフラへのアクセスは同じであるにもかかわらず、導入率は産業によって異なるのです。
ハイテク、メディア及びエンターテインメント、電気通信、金融サービスなどの産業は、デジタル化のアーリーアダプターですが、それに対し、建設、鉱業、医療、政府などの部門は立ち遅れています。
デジタル化の実施意欲の違いには多くの要因が影響しており、現行のマーケットリーダーは往々にして、蓄積した物理的資産をデジタル資産と交換するのを躊躇するのですが、一部の先進企業がこの隙を突いて、IT化を促進し、大成功しているのです。
ところが既存企業の多くは、新興の競争相手──あまり資本集約的ではない事業を行うデジタル破壊者──のせいで、方針転換せざるをえなくなるのです。
もう1つの推進要因は、収益性の低下に直面して人件費や他の経費を削減する必要に迫られることです。
利益の蓄えが縮小しつつある産業では、デジタル化への圧力はさらに強く、しかし、デジタル化の決定的な推進要因は、顧客からの圧力なのです。
顧客がコミュニケーションや取引のためのデジタル・チャネルを要求すれば、企業は応じざるをえません。
顧客がデジタル顧客体験(CX)を高く評価すれば、投資のための事業提案は正当とされ、デジタル・ディバイドは消し去ることができるのです。
デジタル化の危険性と可能性
デジタル・ディバイドは本来、デジタル技術を利用できるセグメントと利用できないセグメントとの断絶を指す言葉です。
しかし、本当のデジタル・ディバイドは、デジタル化を支持する人々と批判する人々との間にあり、完全にデジタル化した世界がより多くの機会をもたらすのか、それともより多くの脅威をもたらすのかについて、人々の意見は二極化しています【図4―1】。
われわれがリスクを管理し、可能性を探求しないかぎり、デジタル・ディバイドは残り続けるでしょう。

デジタル化の危険性
多くの人に不安を抱かせるデジタル化の脅威は以下の5つです。
自動化と雇用の喪失
企業が自社のプロセスにロボティクスやAIなどの自動化技術を組み込む中で、雇用の喪失が起こり、自動化はより少ない資源を使い、信頼性を高めることによって生産性の最適化をめざすのです。
だが、必ずしもすべての雇用がリスクにさらされるわけではなく、低価値でヒューマンエラーが起こりやすい反復作業は、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)によって成果を上げやすい分野です。
しかしながら、人間の共感力や創造力が必要な仕事は、自動化するのは難しく、脅威についても同様で、脅威は世界のどこでも同じというわけではなく、人件費が高い先進諸国では、効率に対する自動化の影響は大きいのです。
それに対し、新興市場諸国では、人間の労働に代えて自動化を導入することは、コストの面でまだ正当化しにくく、こうした違いが、デジタル・ディバイドをより埋めにくくしています。
未知のものに対する信頼の問題と不安
デジタル化は、単にモバイル機器やソーシャル・メディアを通じて人々を繫ぐだけでなく、それよりはるかに複雑になりつつあり、商取引から交通、教育、医療まで、人間の生活のあらゆる面に忍び込んでいるのです。
この複雑なデジタル化の基盤となるのがAI技術で、この技術は人間の知能の模倣だけでなく超越もめざしています。
高度なAIアルゴリズムやAIモデルは、人間の理解を超えていることが多く、コントロールの欠如に気づいたら、人間は不安を感じ、防御的反応をするのです。
財務管理、自動運転、医療など、高度な信頼が求められる場合についてはとくにそうで、信頼の問題はデジタル技術の導入を妨げる重要な要因になっています。
プライバシーとセキュリティに関する懸念
AIはデータを食べて成長するので、企業は顧客データベースや取引履歴、ソーシャル・メディアや他の情報源からデータを集め、そのデータを使ってAIエンジンがプロファイリング・モデルや予測アルゴリズムを生み出し、それによって企業は顧客の過去や未来の行動に関する詳細な理解を得ることができるのです。
顧客の中には、その能力をカスタム化やパーソナル化のためのツールとみなす者もいますが、営利目的によるプライバシーの侵害とみなす者もいるのです。
デジタル技術は国家安全保障にも脅威をもたらし、戦闘用ドローンのような自律型兵器システムは、従来の兵器より防衛が難しいのは、今回のウクライナ戦争で、実証済みです。
人間の生活のあらゆる面がすでにデジタル化されている今日、諸国はサイバー攻撃を受けやすくなっています。
IoTネットワークに対する攻撃は、1国のデジタル・インフラ全体を無力化することができるのです。
このようなプライバシーやセキュリティに関する懸念は、依然として技術の導入を阻む大きな障害であり、企業や国はこうした懸念を乗り越えなければならないのです。
フィルターバブルと「ポスト真実」の時代
検索エンジンとソーシャル・メディアは、どちらも伝統的メディアを追い越してデジタル時代のおもな情報源になっています。
どちらも認知を形成し、意見を構築する力を持っていますが、これらのツールには固有の問題が1つあるのです。
ユーザーのプロフィールに合わせて情報を提供するアルゴリズムが使われていることです。
パーソナル化された検索結果やソーシャル・メディアのフィードは、結果的に既存の考えを強化し、二極化した極端な意見を生み出します。
さらに懸念されるのが、事実と噓を区別するのがかつてより難しい「ポスト真実」の世界が登場したことです。
作り話からディープフェイクまで、偽情報が至るところにあり、AIの力を利用すれば、本物のように思える偽音声や偽画像を容易に作成できるようになっています。
デジタル・ディバイドを埋めるためには、テクノロジーのこの意図せぬ結果に対処する必要があります。
デジタル・ライフスタイルと行動面の副作用
モバイル・アプリやソーシャル・メディアやゲームは、絶え間ない刺激と没入感を与えて人々を何時間も画面に釘付けにし、こうした依存のせいで、多くの人が他者と直接交流したり、身体的活動を行ったり、適切な睡眠習慣を維持したりすることができなくなり、総合的な幸福度を低下させる恐れがあります。
画面を見ながら過ごす時間が長すぎると、やがて注意力の持続時間が短くなり、生産的作業に集中しにくくなるという問題もあるのです。
デジタル技術は、食料品を自宅まで配達してもらうことから、グーグルマップで目的地までの道順を調べることまで、日々の活動をより便利で、より努力のいらないものにしてくれ、また、人間を依存的で、ひとりよがりにしたりします。
決定を下すとき、われわれは自分の判断を無視して、AIアルゴリズムが提案してくれるものを信頼するようになり、機械に仕事をさせて、あまり介入しなくなり、いわゆる自動化バイアス〈自動化されたものからの提案を好む傾向〉を生み出すのです。
デジタル化を広く行き渡らせるとき、こうした行動面での副作用を克服することが大きな課題になるのです。
デジタル化の可能性
リスクが伴うにもかかわらず、デジタル化は社会にとって途方もなく大きな可能性をはらんでいるので、デジタル化が価値をもたらす5つのシナリオは下記の通りです。
デジタル経済と富の創出
デジタル化は何よりもまず、莫大な富を生み出すデジタル経済の興隆を可能にし、デジタル化によって、企業は地理的境界や産業の境界に縛られずに大量の取り引きを処理するプラットフォームやエコシステムを構築することができるのです。
デジタル技術は企業に、顧客体験だけでなくビジネスモデルもイノベートする力を与えます。
顧客の高まる期待に応え、支払意思額を増大させ、最終的によりよい価値創造の手助けをしてくれます。
デジタル・ビジネスモデルは従来のモデルとは異なり、必要な資産が少なく、市場導入までにかかる時間が短く、スケーラビリティ〈拡張可能性〉が高く、企業は短期間に爆発的成長を遂げることができるのが特徴です。
顧客体験全体をデジタル化することによっても、エラーの減少とコストの低下により、生産性と収益性の向上を実現できます。
ビッグデータと生涯学習
デジタル・プラットフォームとデジタル・エコシステムは、ビジネスのやり方を変化させ、さまざまな関係者──企業、顧客、その他の利害関係者──をシームレスに繫いで、無限のコミュニケーションと取り引きを可能にします。
多くの産業にまたがるこうしたプラットフォームやエコシステムは、過去の物理的資産を蓄積する代わりに大量の生データを集め、そのデータを燃料としてAIエンジンが幅広いナレッジベース〈知識基盤〉を築くのです。
デジタル・ナレッジベースは、MOOCs(ムークス)、すなわち大規模公開オンライン講座の成長をさらに加速し、AI活用のトレーニング・プランとティーチング・アシスタントで、その成長を強化するのです。
また人々に、AI時代に意味のある存在であり続けるための新しいスキルの生涯学習を行う力を与えてくれます。
スマート生活と拡張された人間
デジタル化は、われわれがユートピア映画でしか見たことがないものを実現でき、フルデジタルの世界では、われわれはあらゆる活動が自動化されているか、音声で作動するかのスマートホームに住んでいます。
ロボットのアシスタントが家事を手伝ってくれ、冷蔵庫がセルフオーダーして、ドローンが食料品を配達してくれるのです。
何かが必要なときはいつでも、われわれは3Dプリンターでそれをつくることが出来、車庫には自動運転の電気自動車が待機していて、どこでも行きたいところに連れていってくれます。
このような世界になった時、われわれとデジタル世界を繫ぐものは、もはやスマートフォンだけではなくなっていて、インターフェースはウェアラブルで、場合によっては人間の体に埋め込むことさえできる、より小型のデバイスへとシフトし、拡張された生活を生み出すでしょう。
たとえば、イーロン・マスクが設立したニューラリンク社は、脳とコンピューターを繫ぐ埋め込み型のコンピューターチップの開発を行ない、これが実現すれば、人間は自分の脳でコンピューターを動かすことができるようになります。
ウェルネスの向上と寿命の延伸
ウェルネス〈健康を基盤として生き生きと輝く生活を送っている状態〉の分野では、先進バイオテクノロジーが人間の寿命を延伸することをめざしていて、AIは医療のビッグデータを使って、新薬の発見やプレシジョン・メディシン〈精密医療〉、すなわち個々の患者に合わせた、パーソナライズされた診断と治療を可能にします。
ゲノミクス〈ゲノムと遺伝子について研究する生命科学〉は、遺伝子疾患を予防、治療する遺伝子工学能力を与えてくれ、ニューロテクノロジー〈脳科学の技術的応用分野〉は、脳障害を治療するチップを埋め込む方向に少しずつ近づいていくはずです。
ウェアラブル端末や埋め込み型デバイスで継続的に健康状態を追跡することで、予防医療が可能になり、そのうえ、フードテクノロジーでも同様の前進が見られる。
飢餓や栄養不良を防ぐために、バイオテクノロジーとAIを組み合わせて、食料の生産と分配を最適化する取り組みが行われています。
高齢者をターゲットにして、彼らの長寿にうまく対処し、生活の質を向上させるための製品・サービスを提供するエイジテック〈高齢者向けテクノロジー〉のスタートアップ企業も登場しています。
サステナビリティと社会的包摂
デジタル化は環境のサステナビリティを確保するためにも重要な役割を果たし、電気自動車のシェアリングサービスは、おもな促進要因の1つになります。
近隣の人々が余剰電力をシェアできるピア・ツー・ピアの太陽エネルギー取引というコンセプトも、省エネルギーに役立つはずです。
製造業において、AIは設計から原材料の選定や生産までの無駄の削減に役立ち、AIを活用することで、循環型経済、リユースやリサイクルによって原材料を継続的に利用する閉じたループシステムの構築が予想されます。
デジタル・ディバイドが埋められ、世界中で普遍的な接続性が実現すれば、低所得コミュニティにも市場やノウハウへの平等なアクセスが提供される真の包摂社会が築かれます。
そのような社会は低所得層の人々の生活を向上させ、貧困の撲滅を促進します。
デジタル化に対する二極化した見方は、新しいデジタル・ディバイドで、この論争に終止符を打つために、われわれはテクノロジーを利用する人間の側を深く掘り下げて、人間の最善の部分を引き出すテクノロジーを活用する必要があります。
テクノロジーはパーソナルになれる
マーケティング5・0の時代における顧客は、企業が自分のことを理解して、パーソナライズした体験を提供してくれることを期待している。
これは顧客がごく少数の企業なら実行できますが、大規模かつ継続的に行うのは容易ではないのです。
具体的な顧客プロフィールをつくり、そのプロフィールに合うオファーを生み出し、カスタマイズしたコンテンツを提供し、パーソナライズした体験を提供するためには、テクノロジーの利用が必須です。
AIはカスタマー・ジャーニーのあらゆるタッチポイントを3つの形で向上させる。
第1に、より賢明なターゲティングを可能にする。
つまり、最適なオファーを最適なタイミングで最適な顧客に提供できるようにすることが出来ます。
第2に、よりよいプロダクト・フィット〈顧客ニーズへの適合度〉を実現します。
企業はパーソナライズした製品を提供し、しかも顧客がそれをカスタマイズすることさえ可能にするかもしれないのです。
最後に、よりよいエンゲージメントを可能にします。
企業は個々の顧客に合わせたコンテンツを提供でき、顧客とより親密に接することができるのです。
AIを利用したパーソナル化は、顧客の満足度とロイヤルティを高め、ひいてはデータの共有に対する顧客の受容度を高めます。
パーソナル化の実際のメリットがプライバシー侵害の脅威を上回れば、顧客は個人データを共有することにもっと前向きになるでしょう。
重要なのは、人間の選択的注意〈多くの情報の中から自分が重要だと認識する情報だけを選んで注意を向けること〉を利用して、自分がコントロールしているという感覚を生み出すことです。
顧客はパーソナル化によって自らの意思決定が容易になり、同時に意思決定を自分でコントロールする余地がある程度与えられている場合に、パーソナル化をより好ましいと思うのです。
選択的注意を利用する
心理学者のバリー・シュワルツは著書『The Paradox of Choice』〈邦題『なぜ選ぶたびに後悔するのか──「選択の自由」の落とし穴』武田ランダムハウスジャパン、2004年〉で、選択肢をなくしたら、一般通念に反して意思決定の悩みが減り、満足感が高まると主張している。
選択的注意のおかげで、われわれは限られた集中力の持続時間で情報をフィルターにかけ、処理して、重要なことに集中できます。
製品の選択肢やコマーシャルメッセージやチャネルの選択肢が多すぎると、われわれはあれこれ迷い、単純であるべき購買決定を行うのが難しくなるのです。
複雑な決定をすることは自分の仕事ではないはずで、企業には選択肢を簡素化して最善の推奨を行う責任があり、情報過負荷の時代における意思決定が容易になるように、AI技術が、われわれの頭の中の選択的注意というフィルタリングに既に一部取って変わりつつあるのです。
何百万もの顧客プロフィールやレビューがある中で、企業は具体的な顧客ニーズをソリューションとマッチさせることができなくてはいけなくなっています。
個々人がコントロールできるようにする
人間の本性に深く染み込んでいるのが、自分自身や環境をコントロールしたいという欲求です。
コントロール感──自分の決定や結果を自分でコントロールしているという感覚──を持つことは幸福感を高めることが実証されています。
そこで先進企業は、顧客の購買決定に関して、テクノロジーによってコントロールが容易になることを実証し始めています。
顧客の選択肢を制限するということは、既定の選択肢を1つだけオファーするということではなく、企業がAIを使って行ったパーソナル化に加えて、顧客によるさらなるカスタム化も可能でなければならないのです。
顧客は製品の選択やタッチポイントの選定に関して、それぞれ異なるレベルのコントロールを望み、テクノロジーを利用することで、企業は顧客のコントロール欲求を予測して、パーソナル化とカスタム化の適切なバランスを提供できるようになります。
製品選びだけでなく総合的な顧客体験も、企業と顧客の共創プロセスであるべきで、同じ製品またはサービスと接するとき、どの顧客もそれぞれ独自の体験を望み、製品やタッチポイントを分解し、モジュラー化すれば、顧客は自らが望む顧客体験の構成要素を選ぶことができる様になります。
それは事実上、体験の共創であり、それによって顧客側の当事者意識が高まるはずです。
テクノロジーはソーシャルになれる
ほとんどの顧客が、自分のソーシャル・ネットワークは広告や専門家の意見より信頼できると思っています。
購買決定は、今では個人の選好だけでなく社会的同調欲求によっても促進され、ソーシャル・メディアは期待を高める働きもするのです。
顧客はソーシャル・カスタマーケア〈ソーシャル・メディアを介した顧客支援〉を利用できることを求め、瞬時の応答を要求しています。
マーケティング5・0では、企業は顧客対応業務やバックエンド業務にソーシャル・テクノロジーを導入することによって、顧客の要求に応える必要があり、ソーシャル・テクノロジーの現場におけるもっとも一般的な応用は、ソーシャル・カスタマーケアを目的とするもので、顧客インタラクションに向けての代替コミュニケーション・チャネルの提供です。
社内での利用としては、従業員のコミュニケーションを促進し、ナレッジ・シェアリングを可能にし、協働を発展させるために、ソーシャル・ツールを導入するのです。
人と人との繫がりを促進する
われわれ人間は、生まれた時は弱く、親や養護者に頼って基本的ニーズを満たし、幼年期になると徐々に、知的・感情的学習の初期の手法として、周囲の人々とコミュニケーションをとったり、交流したりするようになります。
交流する際には、考えやストーリーを交換するだけでなく、相手と似通った表情をしたり、感情を抱いたりして、人間の脳は人生の極めて早い時期に社会的になるようにつくられています。
技術の応用であるソーシャル・メディアが成功している理由は、人間が社会的存在であるためです。
われわれは他の人々の個人的経験を聴いたり、自分自身の経験を語ったりするのを好み、視覚的手がかりはないが、ソーシャル・メディアはわれわれの社会的ニーズを対面での会話以上に満たす代替プラットフォームを生み出しています。
ビジネスにおけるテクノロジーの他の応用も、社会的繫がりを求める人間の欲求を利用するべきで、テクノロジーは、たとえばブログやフォーラム〈ネット掲示板〉やウィキペディアを通じて、体験や情報の共有を促進するのです。
企業と顧客の間だけでなく、顧客同士の間でも会話が拡大されるべきで、クラウドソーシング・モデルは、テクノロジーがさまざまな能力やスキルを持つ人々をどのように結び付けて協働に繫げるかを示しています。
さらに、テクノロジーを活用するソーシャル・コマース〈ソーシャル・メディア上で消費者とブランドがコミュニケートし、その場で製品・サービスを販売するマーケティング手法〉は、デジタル・マーケットプレイスにおける買い手と売り手の取り引きを促進してくれる。
野心の追求を推進する
社会的存在であるわれわれ人間は、他の人々のライフストーリーを観察し、それを自分の生活に関連付け、ソーシャル・ネットワーク内の友だちがわれわれの基準になるのです。
われわれは取り残されることへの恐れ(FOMO)に突き動かされて、他の人々、とりわけワクワクするような生活を送っているように見える人々の行動やライフスタイルを真似ようとします。
今日における個人の期待は、われわれにひっきりなしに影響を与え、より大きな目標を達成したいという意欲を起こさせる社会環境によって設定され、テクノロジーは、ソーシャル・ネットワークに埋め込まれているこうした隠れた野心追求を利用するべきです。
AIを利用したコンテンツ・マーケティングやゲーミフィケーション〈人を楽しませ、熱中させるゲームの要素や考え方をゲーム以外の物事に応用すること〉やソーシャル・メディアは、仲間からの承認や社会的上昇を求める人間の生来の欲求を後押しするのです。
提案や推奨によって顧客を上から目線で手助けするのではなく、顧客が企業の言葉より聴く気になる既存のロールモデル──友人や家族やコミュニティ──を通じるなどして、AIの影響力はさりげなくするべきです。
しかし、社会的影響を利用する際、企業は製品・サービスの販売を超えたことを行う必要があり、テクノロジーはデジタル・アクティビズムを、そして最終的には社会変革を促進する強力な行動修正ツールになるかもしれないのです。
ソーシャル・ネットワークを通じて人々により責任あるライフスタイルを追求するよう働きかけ、励ますことは、人類に対するテクノロジーの大きな貢献になるかもしれないのです。
以上のように、テクノロジーの使い方の戦略が今後、一番重要な時代になってきたのです。
テクノロジーはエクスペリエンシャル〈顧客体験を強化する要素〉になれる
顧客は製品・サービスの質だけで企業を評価するわけではない。
すべてのチャネルのすべてのタッチポイントを含む総合的なカスタマー・ジャーニーを評価するのです。
そのため、イノベーションは製品だけでなく体験全体にも重点を置くべきで、企業は製品の差別化を確立することに加えて、コミュニケーションを強化し、チャネルプレゼンスを高め、顧客サービスを向上させる必要があります。
デジタル化の拡大はオムニ・チャネルでの体験を求める声を増大させ、顧客は1つのチャネルから別のチャネルに──オンラインからオフラインに、またその逆に──絶えず移動し、断絶のないシームレスで一貫性のある体験を期待します。
企業はハイテクとハイタッチを統合したインタラクションを提供しなければならず、マーケティング5・0では、AIやブロックチェーンのようなバックエンド〈ユーザーから見えないところでデータの処理や保存などを実行する裏側の部分〉の技術が、シームレスな統合を進める上で重要な役割を果たします。
一方、センサー、ロボティクス、音声コマンドなどのフロントエンド技術は、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)とともに、カスタマー・ジャーニー全体にわたって対面タッチポイントを強化する可能性があるのです。
ハイテク・インタラクションに力を与える
マシンの弱点の1つは人との触れ合いを再現できないことです。
この課題に対処するために、高度なロボティクスやセンサーを組み込んだ人工皮膚の開発がすでに進められていますが、それはリアルな感触を再現することだけでなく、単純な人との触れ合いから多様で複雑な感情を読み取ることも目的としているのです。
人間は触れるだけで相手の感情を読み取ることができるのですから。
マシュー・ハーテンステインによる研究で、人間は触れることで8つの異なる感情──怒り、恐怖、嫌悪、悲しみ、同情、感謝、愛、喜び──を、最高で78パーセントの正確さで他者に伝えられることが明らかになりました。
これらの主観的感情を、論理的で矛盾のない定量化可能なパターンに頼るだけのマシンに教えるのは極めて難しく、したがって、製品・サービスの提供には、ハイテクとハイタッチのインタラクションのバランスをとることが必須なのです。
それでも、テクノロジーはハイタッチを提供する上で重要な役割を果たすことができ、低価値の事務作業をマシンに任せれば、現場スタッフは顧客対応活動にもっと多くの時間を使えるようになります。
対面タッチポイントの効果は、AI支援の顧客プロファイリングによっても高めることができ、現場スタッフが自分のコミュニケーション方法を調整し、適切なソリューションをオファーするための手がかりが提供されるのです。
絶え間ないエンゲージメントを提供する
人間は安定した幸福度を維持する傾向があり、ワクワクするような好ましい体験をしたときは、幸福度は一時的に高まるかもしれないが、やがてベースラインのレベルに戻ります。
同様に、やる気をそぐような嫌な体験をしたときは、幸福度は下がるかもしれないが、また元のレベルに戻ります。
心理学において、この現象はヘドニック・トレッドミル〈快楽適応〉──ブリックマンとキャンベルによって生み出された用語──と呼ばれています。
人生における体験に対する満足度は、常に一定のベースラインに引き寄せられるので、顧客としてのわれわれがすぐに飽きてしまい、本当に満足することが決してないのは、これが理由なのです。
われわれはカスタマー・ジャーニーの全行程で絶え間ないエンゲージメントを望み、そのため、企業は顧客が競合他社にスイッチするのを防ぐために、ときどき自社の顧客体験を改良したり刷新したりしなければならないのです。
新しい顧客体験を連続的に生み出すことは難しいのですが、しかし、企業はデジタル化によって、顧客体験イノベーションにかかる時間を短縮することができます。
デジタル空間では、迅速なテスト、コンセプト調査、プロトタイプの作成が容易に行えるからです。
しかしながら、デジタル技術を利用した顧客体験イノベーションは、ユーザー・インターフェースの設計を変えるというような単純な変更ではすまなくなっており、チャットボットから仮想現実や音声制御まで、エマージング・テクノロジーは企業が顧客とコミュニケーションをとる方法を一変させつつあります。
AI、IoT、ブロックチェーンなどの技術は、バックエンドの効率も高めており、より速い顧客体験イノベーションが可能になっています。
まとめ:テクノロジーをパーソナルに、ソーシャルに、そしてエクスペリエンシャルにする
以上のように、デジタル・ディバイドは依然として存在し、インターネットの完全な普及が実現するには少なくともさらに10年はかかり、アクセスできるようになるだけでは、デジタル・ディバイドを終わらせることはできないのです。
フルデジタルの社会になるためには、われわれはオンライン通信やソーシャル・メディアだけでなく、生活のあらゆる面でテクノロジーを利用する必要があるのです。
デジタル化によってもたらされる懸念や不安があるにもかかわらず、人類にとっての便益は明らかで、マーケティング5・0では、企業はテクノロジーの正しい利用は人間の幸福を高める可能性があることを、顧客に対して実証する必要がありますが、一部の企業では既に、成功しているのです。
デジタル化は社会的関係を消し去るわけではなく、社会的関係を破壊するどころか、デジタル化は顧客と顧客コミュニティの間により親密な繫がりを築くプラットフォームを提供するのです。
人間対マシンという二分法には終止符を打つ必要があり、優れた顧客体験を提供するためには、ハイテク・インタラクションとハイタッチ・インタラクションの統合が必要不可欠なのです【図4―2】。

考えるべき問い
□テクノロジーについて自分は個人的にどのような見解を持っているか?
テクノロジーは自分の組織にどのように力を与えられるか、もしくはどのように混乱をもたらす恐れがあるかを考えよう。
□自分の組織で現在実施されているテクノロジーは、自分が顧客にパーソナルで、ソーシャルで、エクスペリエンシャルなソリューションを提供することを可能にするかどうか評価してみよう。
最後に
今回も超難解な文章に最期までお付き合いいただき、ありがとうございます。
前回の記事でも書きましたが、マーケティング5.0自体が内容の濃い、難解な書物なのに、今週のデジタルデバイドの難解さは異常でした。
同時に、今まで感じていたデジタル・デバイドと本当のデジタル・デイバイドの本質が良く見えてきました。
これからの時代には、われわれ企業サイドの人間は、デジタル・デイバイドをさまざまな方向から克服し、同時に人間らしいハイタッチの問題解決の大切さを理解させられました。
最近の九州発の目覚ましい成功を収めているスーパー「トライアル」等は、デジタルデバイドを積極的に活用し、他社と大きく差別化に成功し、非常に収益性の高いビジネスモデルを構築しています。
以前に取りあげた、新しい外食ビジネスのクリスプ・サラダ・ワークス等の全く同じ取り組みです。
デジタル・デマンドの取組みは難しい取り組みではありますが、早期に取り組む企業と、そうでない企業の差は、これから大きく開くと確信しています。
現在の日本を一言で言い現わすと、春の芽吹きの時期です。
これから、本格的な春の到来で、これからの日本は、世界の中でも非常に有望な国になっていきます。
その大きなカギが日本本来の伝統文化であり、日本人の持っている感性の素晴らしさです。
これらとデジタル・テクノロジーが融合し、非常に強い日本が生まれていくと思います。
次週以降も、マーケティング5.0のテクノロジーの重要な要素、デジタルについてです。