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マーケテイング5.0の本質について
マーケテイングの大家、フィリップ・コトラーによれば、「マーケテイングの目的は一貫して、人々の生活を向上させ、共通善に貢献すること」とあります。
前回では、マーケテイング1.0から始まり、既にマーケテイング4.0が2010年代から始まり、マーケテイング5.0は既に2010年代の後半から2020年代には始まり、多くの人たちが気づかない間に、ビジネス界には浸透していたのです。
現状でわれわれが既に掴んでいる情報を元に、マーケテイング5.0の本質について、深く迫り、同時にこれからマーケテイング5.0を麺ビジネスに有効活用して、麺ビジネス業界での勝ち組になれる方向性を探っていきたいと思います。
尚、これからのこの研究は多分業界初の試みであり、業界の勝者になりたい興味のある人は、しばらく一緒にお付き合いして頂きたいと思います。
尚、今回は主に麺業界について取り組んでいきますが、麺業界でなくてもどのような業界においても、充分に活用出来る概念になっています。
特に、日本は少子高齢化で、高齢者の多くが今後の介護等の問題を抱えていたり、さまざまな日本の社会問題の解決にも非常に有効なアプローチであると思います。
これからしばらくは、一緒にマーケテイング5.0の探求の旅を楽しんでみませんか。
マーケティング5・0とは何か
マーケティング5・0とは、人間を模倣した技術を使い、カスタマー・ジャーニーの全行程で価値を生み出し、伝え、提供し、高めることだとコトラーは定義しています。
上記のカスタマー・ジャーニーとは、顧客が特定のサービスや商品を知り、利用するまでの一連の過程を示します。
麺ビジネスにおけるカスタマージャーニー
それで、次にうどん蕎麦店やラーメン店のような麺ビジネスにおけるカスタマー・ジャーニーは、次のようなステージに分かれます。
1.認知(Awareness)
顧客が店の存在を知るステージです。
広告、口コミ、SNS、食べログやGoogleマップなどのレビューサイトを通じて認知されることが多いです。
2.興味(Interest)
顧客が興味を持ち、メニューや店の雰囲気を調べ始めます。
ウェブサイトやSNSの情報、写真、メニューの詳細、特別なキャンペーンなどが影響を与えます。
3.比較(Consideration)
他の店舗と比較して検討する段階です。
価格、味、サービス、場所、雰囲気など、様々な要素で検討し、最終的に訪問する意思を決定します
4.訪問(Visit)
実際に店舗を訪れるタイミングです。
店の立地、接客、衛生状態、席の待ち時間などが全体的な体験に影響を及ぼします。
5.体験(Experience)
注文、料理の提供、味、サービスの質、店内の雰囲気など、実際の体験が行われます。
顧客の期待を超えるサービスや食事が記憶に残る要素です。
前回のブログでお知らせしたクリスプ・サラダ・ワークスはこの段階で、お客さまを感動させる高いレベルの商品力、特に、美味しさ、健康志向、接客レベル等で、最高の顧客体験を提供しているのです。
6.評価(Evaluation)
食事の後、顧客がその体験を評価する段階です。
この時の満足感や不満足感が、リピート訪問や口コミに反映されます。
上記のクリスプ・サラダ・ワークスは、食後の体験後のお客さまの評価をすぐに、アプリを通じて獲得し、それを次の改善、改良に役立てているのです。
7.リピート(Loyalty)
再訪問や他の人への推薦をするかどうかに関わる段階です。
割引やポイント制度、顧客サービスなどがリピートを促進します。
クリスプ・サラダ・ワークスの使命、Missionは、「熱狂的なファン客を作っていく」ことでした。
あらゆる戦略、手段が熱狂的なファン客作りに向けられ、熱狂的なリピート客作りに最も力を入れているのです。
8.フィードバック(Feedback)
顧客がサービス改善のための意見を提供したり、SNSやレビューサイトに評価を投稿することが含まれます。このフィードバックは店舗運営において重要な情報源です。
クリスプ・サラダ・ワークスは、企業内のあらゆる情報をオープンにして、特に、秘蔵のサラダのドレッシングのレシピまでオープンにしているのは驚きですが、そのようなあらゆるフィードバックを通じて、お客さまにブランド価値と企業の価値観を浸透させているのです。
まさに、クリスプ・サラダ・ワークスは私にとって、マーケテイング5.0の素晴らしい生きた事例でした。
これらのステージを通じて、顧客の体験を向上させるために、店舗側はマーケティング活動やサービス改善を行うことが重要です。
カスタマージャーニーを理解し、各ステージで顧客のニーズに応えることで、顧客満足度を高め、上記のクリスプ・サラダ・ワークスの様にリピート客を増やすことができます。
マーケテイング5.0を実現するテクノロジーと実例集
マーケティング5・0の重要なテーマの1つが、マーケターの能力を模倣することをめざす一群のテクノロジーで、いわゆるネクスト・テクノロジーなのです。
こうしたネクスト・テクノロジーには、AI、NLP、センサー、ロボティクス、拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、IoT、ブロックチェーンなどがあります。
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AI(人工知能)
→ コンピューターが人間のように考えたり判断したりする技術。たとえば、チャットボットや画像認識など。 -
NLP(自然言語処理)
→ コンピューターが人間の言葉を理解して、会話したり文章を作ったりする技術。翻訳アプリや音声アシスタントがこれに当たります。 -
センサー
→ 温度や動き、音などを感じ取る機械。たとえば、自動ドアやスマートフォンの画面の明るさ調整など -
ロボティクス
→ ロボットを作ったり動かしたりする技術。工場の製造ロボットや掃除ロボットが代表的です。 -
拡張現実(AR)
→ スマホやゴーグルを通して、現実の世界にデジタルの情報や映像を重ねて表示する技術。 -
仮想現実(VR)
→ ゴーグルを装着して、完全に仮想の空間に入り込んだような体験ができる技術。VRゲームやバーチャル観光などに利用されています。 -
IoT(モノのインターネット)
→ 家電や機械がインターネットにつながり、スマホなどから操作したり、データを送ったりする技術。スマートスピーカーやスマート家電がその代表例 -
ブロックチェーン
→ データを複数のコンピューターに分散して記録し、改ざんしにくくする技術。ビットコインなどの暗号資産などなどに利用されている
これらの技術の組み合わせが、マーケティング5・0をイネーブラー化〈実現を可能にする〉要因となるのです。
AIは長年、人間の認知能力、とりわけ構造化されていない顧客データから学んで、マーケターにとって役立つ可能性がある知見を見つける能力を再現するために開発されてきました。
他のイネーブリング・テクノロジー〈実現技術〉と組み合わせれば、適切な顧客に適切なオファーを提供するために利用することもできるのです。
ビッグデータ分析ツール(AI等)は、マーケターが個々の顧客に合わせてマーケティング戦略をパーソナライズすることにより、──「セグメント・オブ・ワン」マーケティングとして知られる、お客さま1人ひとりに合わせたプロセス──を可能にするのです。
今日では、こうした慣行がますます主流になってきているのは、これらのコストが非常に安く活用出来る様になったのが、大きな原因です。
マーケティング5・0の次のような例を検討してみよう。
AIの機械学習のおかげで、企業は特定の機能を持つ新製品が成功する可能性を予測するのに、予測アルゴリズムの支援を受けることができるようになりました。
これによって、マーケターは新製品開発プロセスの多くの手順を省略することができ、たいていの場合、これらの予測は時代遅れの市場調査より精度が高く、時間のかかるコンセプト調査よりスピーディに知見を生み出すことが出来ます。
たとえばペプシコは、ソーシャル・メディア上での顧客の会話を詳しく分析し、その分析に基づいて新しい飲料製品を定期的に発売しているのです。
AIは購買パターンを明らかにして、eコマース小売企業が特定の顧客集団のプロフィールに基づいて、適切な製品やコンテンツをレコメンド〈推奨〉するのを助けるのです。
これらは既に、われわれが日々、接しているAmazon等の書籍販売でも当たり前になっている技術です。
推奨エンジンは、eコマース小売企業や、アマゾン、ネットフリックス、ユーチューブなど、デジタル企業の重要な差別化ツールとなっているのです。
推奨エンジンは過去の購入履歴を継続的に分析して、顧客の動的なセグメンテーションやプロファイリングを行い、一見無関係に見える製品間の隠れた関係を見つけ出してアップセル〈より上位で高価な製品を購入させること〉やクロスセル〈他の製品を併せて購入させること〉に繫ぐことができるのです。
ABインベブ、チェース、レクサスなど、さまざまな業種の企業が、人間の関与を最小限に抑えながら広告を開発するためにAIを活用しています。
バドワイザーやコロナなどのビールを製造しているABインベブは、それぞれの広告出稿がどれくらい効果を上げているかを測定し、そこから得られた知見を制作チームにフィードバックして、より効果的な広告を生み出そうとしています。
チェースは自社のバナー広告のコピーを、人間のコピーライターではなくAIエンジンに書かせたのです。
レクサスは新しい大型高級セダン車「ES」のテレビ広告を制作するために、ぜいたく品市場で実施された過去15年間の受賞キャンペーンを分析しました。
そして、すべてAIによって書かれた台本を使い、アカデミー賞受賞監督を雇ってコマーシャルを撮影させたのです。
マーケティング5・0の実行は、バックオフィス業務だけを対象とするものではなく、NLPやセンサーやロボティクスと組み合わせれば、AIは顧客対応活動でもマーケターを手助けできるのです。
もっともよく知られているAIの活用例の1つは、顧客サービス用チャットボットで、これは当社も活用しており、社会の高齢化やコストの上昇など、人的資源上の課題に直面して、一部の企業は現場スタッフの代わりとしてもロボットや他の自動化手段を使っています。
たとえばネスレ日本は、AI搭載ロボットにコーヒーの給仕をさせ、アメリカのホテルチェーンのヒルトンは、ロボットのコンシェルジュを実験的に使っており、イギリスの小売最大手テスコは、レジ係を顔認識カメラに置き換えることをめざしています。
小売企業はセンサーとIoTを使うことで、実店舗空間でデジタル体験を提供することができるのです。
たとえば小売店の顔検知スクリーンは、買い物客のデモグラフィック属性を推定して適切なプロモーションをオファーすることができます。
アメリカの薬局チェーン・ウォルグリーンのデジタル・クーラーはその好例です。
セフォラやイケアが使っているようなARアプリは、買い物客が購入を決める前に製品を試してみることを可能にします。
メイシーズやターゲット(Target)は、店内の経路案内や対象を絞ったプロモーションのためにセンサー技術を利用しています。
これらの技術の中には、マーケターにとって荒唐無稽で、こけおどしに聞こえるものさえあるかもしれませんが、だが、これらの技術が近年どれほど手頃な価格になり利用しやすくなっているかを、われわれは理解し始めています。
グーグルとマイクロソフトが開発したオープンソースのAIプラットフォームは、企業にとって手軽に利用でき、私の日々、無料版を活用し、本ブログの文章作成にも使っています。
月次サブスクリプション方式で利用できるクラウドベースのデータ分析ツールには、いくつもの選択肢があり、非技術系の人間でも使えるユーザーフレンドリーなチャットボット構築プラットフォームも、多種多様な選択肢から選ぶことができます。
コトラーは本書で、マーケティング5・0を高次の戦略的視点から探求

高度なマーテックを利用するノウハウをある程度取り上げはするが、本書は技術書ではなく、コトラーの基本理念は、「技術は戦略に従うべきだ」であるのです。
したがって、マーケティング5・0のコンセプトはツールを問わないのです。
企業は市場で入手できるいかなる支援ハードウェアや支援ソフトウェアを使ってでも、マーケティング5・0を実行でき、ただし、それらの企業には、さまざまなマーケティング上の使用例に適切な技術を使う戦略をどのように設計するべきかを理解しているマーケターが存在していなければならないのです。
従って、この時点において、マーケテイングを主体で行なう、マーケテイングのリーダーは、いかにさまざまな先端の情報に触れ、独自の戦略を磨いておく必要があるのです。
以上のような理由から、テクノロジーに関する詳細な論述にもかかわらず、依然として人間がマーケティング5・0の中心であるべきだと指摘しておくことは重要なのです。
ネクスト・テクノロジーは、マーケテイングの主体者がカスタマー・ジャーニーの全行程にわたって価値を生み出し、伝え、提供し、高める手助けをするためにのみ、使われるのです。
従って、下記の様に、摩擦のない魅力的な新しい顧客体験(CX)を生み出すことが目的です。【図1―1】
それを実現するにあたり、企業は人間の知能とコンピューターの知能とのバランスのとれた共生を活用しなければならないのです。
AIには、大量のデータからそれまで知られていなかった顧客の行動パターンを見つけ出す能力がありますが、だが、AIの演算能力が高度であるにもかかわらず、人間だけが他の人間を理解することができるのです。
人間のマーケターには、顧客の行動の背後にある動機をフィルターにかけ、解釈することが求められるのです【図1―2】。
なぜなら、人間の知能は文脈を把握することができ、それでいてファジーでもあるからです。
※ファジーとは?
・あいまいであること
・柔軟性があること
・ぼんやりしていること
経験豊富なマーケターがどのようにして知見を引き出し、英知を発達させるのかは、誰も理解出来ないのです。
それに、科学技術者たちは、顧客と人間レベルの繫がりを築けるマシンをつくることにはまだ成功していないのです。

人間は自分が学び方を知らないことをコンピューターに教えられないので、マーケティング5・0では人間のマーケターの役割が依然として重要です。
したがって、マーケティング5・0における議論は、カスタマー・ジャーニーの全行程のうち、マシンと人間はそれぞれどこに適していて、どこで最大の価値を提供できるかを明らかにすることを中心に展開されます。
本書の第3部はこの問題を詳細に論じており、マーケターが技術の戦術的利用を検討する前に適切な基盤を得るのに役立つのです。
第5章は、企業が高度なデジタルツールを利用するための自社の準備度を評価する助けになります。
また、第6章は、ネクスト・テクノロジーに関する初歩的説明を含んでいるので、マーケターがネクスト・テクノロジーを理解する助けになるでしょう。
最後に、第7章では、新しい顧客体験の創出で実績のあるさまざまな事例について検討しています。
テクノロジーはマーケティングをどのように強化できるか
eコマースの爆発的成長に加えて、ソーシャル・メディア・マーケティングや検索エンジン・マーケティングの台頭により、マーケターはデジタル化のメリットを認識するようになっていますが、デジタルの文脈で語られるマーケティングは、顧客をデジタル・チャネルに移行させるとか、デジタル・メディアへのマーケティング支出を拡大するといったことに留まっているのです。
デジタル技術によって、マーケターの仕事のやり方は抜本的に変えられるのが、テクノロジーは次の5つの方法でマーケティング活動を強化できるという理由です。
1.ビッグデータを使って、より情報に基づいた決定を下す
デジタル化の最大の副産物はビッグデータで、デジタルの文脈では、あらゆる顧客接点──取り引き、コールセンターへの問い合わせ、Eメールのやり取り──が記録されます。
加えて、顧客はインターネット上のコンテンツを閲覧したり、ソーシャル・メディアに何かを投稿したりするたびに足跡を残します。
プライバシーの問題はありますが、そうした足跡は、抽出すべき知見の宝庫なのです。
要するに、顧客に関する重要な情報は気を付ければ、常に社内に蓄積されているのです。
この豊富な情報を活用することで、マーケターは個々の顧客に合わせたパーソナライズドマーケティング(ワン・トゥ・ワン・マーケティング)を大規模に実行することができるのです。
私は、最近、統計専門の社内の女性と一緒に社内のビッグデータの解析に取り組んでいますが、ますますこれらの重要性をひしひしと感じている次第です。
2.マーケティング戦略・戦術の結果を予測する
必ず成功するマーケティング投資などありはしないのですが、あらゆるマーケティング活動のリターンを計算するという考えは、マーケティングの説明責任を引き上げてくれるのです。
AI搭載の分析ツールのおかげで、今では新製品の発売や新キャンペーンの発表前にマーケターが結果を予測することが可能になっています。
予測モデルは、過去のマーケティング活動からパターンを見つけ出して何が成功するかを理解し、その学習に基づいて未来のキャンペーンの最適設計を推奨してくれます。
これを利用することで、マーケターはブランドを失敗の危険にさらさずに先手を打てます。
3.文脈に合ったデジタル体験を物理的世界に持ち込む
デジタル・マーケターは、インターネット・ユーザーを追跡することによって、パーソナライズされたランディングページ〈ウェブ広告をクリックした先に現れるページ〉、関連のある広告、カスタムメイドのコンテンツなど、文脈にピッタリ合った体験を提供できます。
これはデジタル・ネイティブの企業に、実店舗型の競争相手に対する大きな優位性を与えるのです。
今日では、接続されたデバイスやセンサー──モノのインターネット(IoT)──が、企業に文脈に合ったタッチポイントを物理的空間に持ち込む力を与え、シームレスなオムニ・チャネル体験を容易にし、企業活動の場を滑らかなものとしています。
センサーのおかげで、マーケターは誰が来店しようとしているかを特定し、パーソナライズした接遇を提供することができます。
4.現場のマーケターの価値提供能力を拡張する
マーケターはマシン対人間という論争に引きずり込まれるのではなく、人間とデジタル技術の最適な共生関係の構築に集中することができるのです。
AIはNLP(自然言語処理)とともに、低付加価値の作業を引き取って現場スタッフに自分のアプローチを調整する力を与え、顧客対応業務の生産性を高めることができます。
チャットボットは単純な大量の会話に即時応答で対処でき、ARやVRは、企業が人間の関与を最小限に抑えながら魅力的な製品を提供する手助けをします。
つまり現場のマーケターは、顧客が強く望むソーシャル・インタラクション〈社会的やり取り〉を、必要があるときにのみ提供できるのです。
5.マーケティングの実行をスピードアップする
常に接続状態にある顧客の選好は絶えず変化し、企業はかつてより短期間で利益を得なければならないという圧力を感じています。
こうした課題に対処するためには、無駄を徹底的に省いた、歴史の浅い、規模の小さいスタートアップ企業の俊敏な慣行からヒントを得ることができるのです。
これらのスタートアップ企業は、技術に大きく依存して迅速な市場テストとリアルタイムの検証を行っています。
企業は製品やキャンペーンをゼロから生み出す代わりに、オープンソース・プラットフォームを基盤にし、共創を活用して、市場投入を加速するのです。
しかし、このアプローチには、技術の支援だけでなく適切かつ俊敏な態度や考え方、戦略も必要です。
マーケティング5・0の5つの構成要素
基本的には、マーケティングはテクノロジーを活用することで、データドリブン〈データに基づいた〉、プレディクティブ〈予測に基づいた〉、コンテクスチュアル〈文脈に合った〉、オーグメンティッド〈人間の能力を拡張する〉、そしてアジャイル〈俊敏な〉になれるのです。
われわれは先進技術がマーケティングにどのような形で価値を加えるかに基づいて、マーケティング5・0の5つの基本的な構成要素を定義します。
マーケティング5・0は、相互に関連した3つのアプリケーション、すなわち予測マーケティング、コンテクスチュアル・マーケティング、拡張マーケティングを軸にしています。
そして、これらの使い方は組織の2つの規律、すなわちデータドリブン・マーケティングとアジャイル・マーケティングをベースにしているのです【図1―3】。
第4部はマーケティング5・0のこれら5つの要素の検討に充てられます。

規律1 データドリブン・マーケティング
データドリブン・マーケティングとは、企業内外のさまざまな情報源からビッグデータを集めて分析するとともに、マーケティング決定を促進し、最適化するためにデータエコシステムです。
〈企業内部のさまざまなデータを外部のデータと掛け合わせ、新たなビジネスモデル、収益モデルを創出すべく形成されるステークホルダーの集合体〉を構築する活動のことです。
マーケティング5・0の1つ目の規律は、「あらゆる決定が十分なデータに基づいて行われなければならない」です。
規律2 アジャイル・マーケティング
アジャイル・マーケティングとは、分散型、部署横断型のチームを使って、製品やマーケティング・キャンペーンのコンセプトづくり、設計、開発、検証を迅速に行うことを言います。
絶えず変化している市場に対処する組織の俊敏性が、マーケティング5・0の実行を確実に成功させるために習得しなければならない2つ目の規律になります。
要するに、スピードの大切さがここで問われているのです。
2つの規律については、第4部で他の章を間に挟んで論述されます。
データドリブン・マーケティングは第8章で論じられ、アジャイル・マーケティングは最後の第12章で説明されます。
マーケティング5・0の3つのアプリケーションを実行するためには、企業はデータドリブン能力〈データを収集、分析し、その結果を次の行動に繫げていく能力〉を構築することから始めなければなりません。
実行の成否を本当に左右するのは、結局のところ、実行する際の組織の俊敏性です。
アプリケーション1 予測マーケティング
予測マーケティングは、機械学習機能を備えた予測分析ツールを構築、使用するなどして、マーケティング活動の結果を開始前に予測するプロセスを言います。
これによって、企業は市場がどのように反応するかを予測し、先手を打って市場に働きかけることができます。
このコンセプトについては第9章で改めて考察します。
アプリケーション2 コンテクスチュアル・マーケティング
コンテクスチュアル・マーケティングは、顧客を識別し、プロファイリングした上で、物理的空間でセンサーやデジタル・インターフェースを活用して、顧客にパーソナライズされたインタラクションを提供する活動です。
これはマーケターが顧客の状況に応じて、リアルタイムでワン・トゥ・ワン・マーケティングを行えるようにする基幹的活動です。
このコンセプトについては、第10章で詳しく説明します。
アプリケーション3 拡張マーケティング
拡張マーケティングは、顧客に対応するマーケターの生産性を向上させるために、チャットボットやバーチャル店員など、人間を模倣した技術を利用することです。
この3つ目のアプリケーションによって、マーケターはデジタル・インターフェースのスピードと利便性を人間中心のタッチポイントの温かみや共感と合体させることができます。
このコンセプトについては第11章で詳しく論じます。
これら3つのアプリケーションは互いに繫がっており、したがって排斥し合うものではないのです。
次のX社の例を考えてみて下さい。
特定のデモグラフィック属性を持つ顧客が、どのような製品を買う可能性が高いかを予測する予測マーケティング・モデルを構築します。
このモデルが機能するためには、同社は売り場にさまざまなセンサーを設置しなければならないのです。
その1つが、セルフサービス型のデジタル・キオスクに取り付けられた顔認識カメラで、あるデモグラフィック属性を持つ顧客がキオスクに近づくと、カメラがそれをキャッチし、売り場のディスプレイに信号を送って、予測モデルによって推奨製品のコンテクスチュアル広告を表示させます。
顧客はこのデジタル・インターフェースをパーソナライズされた形で使うこともできるのです。
同時に、X社は予測モデルを含むデジタルツールで拡張された現場スタッフに、セルフサービスでは不十分な顧客を手助けする能力も与えています。
まとめ──人間のためのテクノロジー
マーケティング5・0は、マーケティング3・0の人間中心という原則とマーケティング4・0のテクノロジーの力を踏まえたものである。
全体的な顧客体験の中で価値を生み出し、伝え、提供し、高めるために、人間を模倣した技術を活用することと定義されるのです。
マーケティング5・0は、カスタマー・ジャーニーマップを作成し、マーケティング・テクノロジーがどこで価値を加えて、マーケターのパフォーマンスを高めることができるかを特定することから始まります。
マーケティング5・0を応用する企業は、最初からデータドリブンでなければならないのです。
データエコシステムを構築することは、マーケティング5・0を実行するための最低必要条件です。
これによってマーケターは、予測マーケティングを行って、あらゆるマーケティング投資の予想利益を推定することができます。
また、売場で1人ひとりの顧客にパーソナライズされたコンテクスチュアル・マーケティングを提供することもできる。
最後に、現場のマーケターは拡張マーケティングの利用によって、顧客とのシームレスなインターフェースを設計することができ、これらすべての実行要素は、市場の変化にリアルタイムで対応するために企業としての俊敏性が求められます。
考えるべき問い
問1:自社におけるデジタル技術の実行は、「ソーシャルメディアマーケティング」と「Eコマース」だけにとどまっていないか?
問2:自社に価値をもたらすと思われる先進技術には、どのようなものがあるか?
マーケテイング5.0をわれわれのビジネスに適用して、ビジネスを大成功させるために
難解な内容にも関わらず、今週も最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます。
こうやって、書いた記事(文章)を振り返ってみると、時代はますます複雑化している現実を理解せざるを得ません。そして、真摯に学ぶことの大切さを思い知らされます。
単なる学ぶだけでなく、マーケテイング5.0を道具の様に使いこなし、深化と進化を続けることの大切さを痛切に感じます。
私も現在、販売におけるデータ分析に深く取り組んでおり、深く掘れば掘るほど、余計に真理に近づけることを実感しております。
特に顧客データは真実のデータであり、顧客データをあらゆる角度から分析すると、足りないデータの存在も見えて来て、そのデータをどうやってつかむかの難しさも感じます。
従って、本記事で解説中でのデータを掴むためのセンサーの大切さも感じる次第です。
特に、マーケテイング5.0の精度を上げようとすると、正確なデータの確保も同様に重要になります。来週もマーケテイング5.0について、深掘りを続けます。
ぜひ、最期までお付き合いいただければ、われわれ全員、マーケテイング5.0を活用し、素晴らしい未来を創造することが出来ると、信じています。