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はじめに
これまでの記事では、「多加水麺の秘密、つけ麺の魅力を最大限に引き出す方法 #1/2」を解説してきました。
この記事では、多加水麺はなぜおいしいのか?に迫り、作り方についても解説します。
こちらの記事では、多加水麺の秘密、つけ麺の魅力を最大限に引き出す方法 #1/2と、その2 #1/2をお話しいたしました。
どちらも多加水麺とラーメンの可能性を解説しましたので、次はミシェランと美味しい多加水麺について解明していきます。
ミシュラン星を狙うラーメン店の特徴
ラーメンの新しいチャレンジ ミシェランの星狙のラーメン店の特徴
当社のユーザーさまの何社かが、ミシェランの1つ星の栄誉を受けています。
当社営業支店長が教えてくれたミシュランの星をもらっているお店の特徴は下記のとおりです。
当社のユーザーさまの何社かが、ミシェランの1つ星の栄誉を受けています。
当社の東京支店の支店長の孟部長が教えてくれたミシェランの星を貰っている店の特徴は下記の通りです。
味
淡麗系ラーメンとは、スープに透明感がありながらも、濃度が高く(7~8度)、うま味とコクが強いのが特徴です。
通常の博多とんこつラーメンと同じ濃度ですが、透明感を保つために高い技術が必要で、これが、スープ作りの難しさを生み出しているのです。
大和ラーメン学校でやっている味に限りなく近いと思います。近い理由は次の3つです
- 材料に妥協がない
- メリハリのある味付け
- テーマがはっきりしている:
淡麗系(通常の博多とんこつラーメンのスープ濃度は7~8度ですが、淡麗系も透明感がありながら同じ7~8度で、従って、スープの難易度は非常に難しいのです。濃度が高いので、うま味とコクが強いのが特徴です。)
大和のラーメン学校でやっている味に限りなく近いと思います。
材料に妥協がない
メリハリのある味付け
テーマがはっきりしている
大和で言うコンセプト
麺は自家製麺
ミシュランのお店の特徴で多いのは、中加水の細めのストレート麺が多いです(麺線をキレイに見せている場合が多いのです。)
細めのストレート麺が多い(麺線をきれいに見せている場合が多いのです。)
中加水
器
お箸も含めこだわりを感じる。安っぽいものは、使っていない。
大袈裟(おおげさ)に高そうなものではなく、そぼくでスタイリッシュなもの
お箸も含めこだわりを感じる。
安っぽいものは使っていない
大げさに高そうなものでもなく、素朴でスタイリッシュなもの
内装
器同様素朴ながらもすっきりして清潔感がある。トイレも同じで清潔感があり、抜かりがない。
接客
店員さんの身だしなみは、テンポよく、心地よい接客
ミシュランも近年商業的な要素が感じられ、客観的な評価100%とは思えませんが、取得したお店の総合的な店舗力は確かに強いです。
仕込みや味の作り方はラーメン学校の内容に近いです。
ただ評価対象は味だけではないと思います。
格調の高い店名もあるのではないかと思います。
ミシェランを取っている店の店名は誰も考え付かないような名前ですが、全部格調が高いです。
そして、店名とコンセプト、内装、外装にすべてコンセプトとの一貫性があり、一致していることも含まれています。
私はプロ中のプロを目指すあなただけに、今回は特別にお教えしたいことがいくつかあります。
順番を追って説明したいと思います。
どこにも負けない多加水、超多加水麺への挑戦
多加水麺の本質
多加水麺の製法には、「ロール製麺方式」と「手打式製麺方式」の2通りの製法があります。
同じ、多加水製麺でも、この2通りの製麺方法では、麺質の違いがあります。 そして、ロール式製麺機と手打ち式製麺機では、仕組みも価格もかなり異なります。
多加水麺はなぜおいしいのか
手作業、すなわち、手打技術で作れる麺はすべて多加水麺ばかりです。
中国古来から伝わる、蘭州ラーメンは手延べ方式、刀削麺も多加水で、中加水麺とか、少加水麺は一切ありません。
今から100年以上前までは、ほとんどの麺作りの方式は手作業で作られていましたが、イタリアだけは早く機械化されたようです。 16世紀には、押し出しの技術が開発され、押し出し方式でパスタの生麺を作り、乾燥した乾麺も作られていたようです。
しかし、東洋の麺の製法は、押し出し方式の韓国冷麺も多加水だったのです。
多加水麺が美味しい理由は、茹で時間の短さが大きな理由です。
麺は一般的に、同じ太さであれば、茹で時間が短いほど、表面の茹で溶けは少なく、麺は美味しくなります。
うどん店も、そば店も、ラーメン店もすべて茹で時間短縮に非常に力を入れているのは、この理由です。また、茹で時間の短い麺ほど、茹で延びが遅いのです。
さらに、多加水麺の場合は、小麦粉に含まれているタンパク質が完全にグルテンに変化し、麺生地の中でグルテンの網目状組織が完全に形成され、網目状組織の中にデンプン粒を包み込み、強固な組織ができあがっているのです。
一般的に、タンパク質の吸水率は、デンプンの吸水率より4倍多く、小麦粉に十分な加水がないと、小麦粉に含まれているタンパク質がグルテンに変わることが出来ないのです。
ところが、超多加水麺はタンパク質が完全にグルテンに変化し、グルテンの網目状組織が完全に出来ているのです。
下図は、手打ち式製麺機とロール式製麺機で多加水製麺を作った場合の違いです。
美味しい多加水麺を作るポイント
番号 | 製麺方法の種類 | 加水状態 | 製法 | 麺サイズ | 食感の特徴 | 麺生地の層の数 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 手打ち製麺機 | 多加水(45%~55%) | 足踏みと同じ方法で、製麺地を作り、2対の小径ロールで圧延して、包丁切り | うどんサイズの極太麺から細麺まで | 柔らかくて粘り強さの程よいバランス、餅状食感、生地の鍛え工程が含まれているので、食感がしなやか | 8~16層(折りたたみながら、麺生地を鍛えて、粘り強さを出す) |
2 | ロール製麺機 | 多加水(40%~45%) | 麺生地を2対の大径ロールの間で、複合し、圧延したりする(複合しないで、一回圧延も可能) | 極太麺から、細麺まで | 加水状態により、粘り強い餅状食感になるが、ロール径が大きいので、麺生地が締まり易く、食感が硬くなりやすい | 1~4層(折り畳まず、複合するだけ通常は鍛え工程はない) |
材料
小麦粉のベース粉は、アミロ値の特別に高い国産小麦粉がおすすめです。
たとえば、当社のうどん日本を使い、次にラーメンの硬さの特徴を出すために、国産小麦のパン用粉、一例で、「はるゆたか」、あるいはオーストラリアン産の「プライムハード」の2種または、3種ブレンドで、麺の太さと求める硬さにより、うどん日本の比率を変えます。
麺が太いほど、ベース粉の比率を高く、硬いほど、硬質小麦の量を増やしつつ、最初は「うどん日本」を80%程度で試してみて下さい。 水は軟水を使用します。
塩は海水と同じ成分の当社の「麺職人の塩46億年」をお勧めし、塩の重量は対紛で1%です。 かん水もラーメン用の粉かん水で、重量は対紛で1%です。
かん水と塩を含む全液体重量は対紛で50~55%程度で、季節により変わります。
手打式製麺機ほど、たくさん加水が出来ますが、ロール式製麺機は50%が限度です。
ミキシング
過度なストレスをかけないように煉り、練り時間は合計で5分です。
撹拌造粒の原理を使い、加水は2度に分ける(注記)尚、詳しい製法は、当社のラーメン学校教科書「究極ラーメン麺を科学した新製麺術」を参照してください。
第一熟成
加水が多いほど、熟成時間が長く、多加水、超多加水の場合は、28度Cで2時間、25度Cで3時間熟成します。
熟成温度が高いほど、熟成時間は短かくなります。熟成についてこちらの記事でも詳しく解説しています。
鍛え工程
グルテン組織形成する工程で手打式製麺機の場合は、足踏み、またはプレスが相当します。
ロール式製麺機の場合でも、大量でない場合は足踏みで可能です。
ロール式の製麺の場合でも、多加水の場合は、この工程は出来るだけ複合をしないで、足踏み、またはプレスをお勧めします。
ここで重要なことは、麺生地に過度なストレスを与えないこと、同時に、ストレスが足りないのもよくなく、ほどよく鍛えることが重要です。
グルテンの組織を破壊せず、しかし、鍛え不足で、もやしのような育て方はしないことが大切です。
ほどよい鍛え工程ができているかどうかは、麺生地の表面を見れば分かります。
キチンと鍛えられた麺生地の表面は下記の画像のように、非常にきれいな肌と折り畳んだ部分がきれいな層になっています。
第二熟成
熟成時間は18度Cで1晩、16度Cであれば2晩寝かせ、プレス等のストレスを与えた後は、必ず、休ませ、寝かせます。
圧延工程
ここで最も重要なことは、 ストレスを与えずに、圧延することで、大きな力で一気に圧延せずに徐々に圧延します。
(参考)多加水麺生地の圧延
圧延の本質、多加水麺での圧延での分かりやすい事例は、手打うどんです。
手打うどんの鍛え終わった麺生地を圧延する目的は、食べやすいサイズにすることです。
厚さを3~4mmまで圧延し、麺線幅を4~5mmにカットして、食べやすくするための圧延です。
ここで重要なことは、食べやすい麺サイズ、食べて美味しい麺サイズにするための圧延であり、もし、圧延以外の方法で、食べやすいサイズに出来るのであれば、無理に圧延をする必要がないのです。
圧延以外の方法で、食べやすいサイズに加工する方法の典型的な事例は、刀削麺であり、手延べ麺です。
そして、最も簡単な方法が、かまぼこ状の麺生地を刀で削いで、湯の中に投入する刀削麺なのです。
麺生地がシッカリ作り上げられていれば、圧延は出来るだけ、無理な力を加えないで、食べやすいサイズに加工することが大切で、それを最も分かりやすくしてくれている事例が刀削麺なのです。⇒ 刀削麺
大きなかまぼこ型の麺生地をナイフで厚さ3mm程度に削ぐだけで、食感のしっかりした、美味しい、茹で時間の非常に短い麺が出来るのです。
特に他の製法とは、比較にならないくらいに短い茹で時間でありながら、麺の食感はしっかりしています。
刀削麺の特徴
1)食感がしっかりしていて、手打うどんに負けない様なしっかりした食感
2)茹で時間が極端に短い⇒圧延作業がゼロで、無理な圧力を加えて、圧延していないにも関わらず、美味しい麺が出来ているのです。
以上より、言えることは、麺生地を圧延する力を出来るだけ加えないで、食べやすいサイズに加工することができれば、最高に美味しくて、茹で時間が短く、茹で延びの遅い、理想的な麺を作ることが出来るのです。⇒極端な言い方ですが、麺生地を麺線にする理想的な仕組みができれば、圧延装置は不要になるのです。
下図は、手打ちうどんを麺棒で圧延している原理図で、麺生地に加わる力は非常に少なく、スムーズに圧延出来ます。
手打うどんの麺棒圧延の原理
麺生地に加わる力
1 上からの手による押さえ圧力
2 麺打ち台の圧力
3 回転力
4 麺棒の開店による、生地の膨張が発生する
5 麺生地のとなりは麺生地で、麺生地に過度な力が加わらない
以上の様に、麺生地に加わる力は非常にしなやか
下図は、ロール式圧延の原理で、ロールの入り口側の麺生地の厚みがA,出口側がBです。
ロール圧延の原理
麺生地に圧延圧力を加えると、最初に弾性変形(元に戻る変形)が起こり、次に塑性変形が発生し、更に無理な力を加えると、組織破壊が起きます(下図1参照)
下記の降伏点が、弾性変形の限界点で、この点を超えると、力を除去しても、元へは戻らなくなります
当社では、降伏点を超えない限界が左図のB÷Aが70~80%程度、70%を割ると、降伏点を超えて、組織が破壊されやすいのです。
(参考)弾性変形と塑性変形~破壊の前に起きること~:破壊工学の基礎知識
ものが壊れるかどうかを決定するのは、力の大きさではなく、単位面積当たりの内力である応力です。 ここでは、麺生地の破壊についての話だと思って下さい。
応力に着目すると、破壊という現象をシンプルに説明できます。
今回は、破壊に至る前に応力が大きくなるに従って、材料の中で起きる弾性変形と塑性変形について説明します。
弾性変形は、加えている力を抜けば、元へ戻る変形で、塑性変形は元へ戻らない変形です。
1)さまざまな応力-ひずみ線図
2)塑性変形とせん断応力
3)延性破壊とぜい性破壊
4)さまざまな応力-ひずみ線図の説明
材料を引張試験機(レオメーター)にかけると、荷重-伸び線図から応力-ひずみ線図が得られます。
応力-ひずみ線図からは、材料が耐えられる最大応力が分かるだけでなく、外部から力を受けて壊れるまでのプロセスを観察できます。
図1に、定性的な3つの応力-ひずみ線図を示します(試験材料は鋼材を想定していますが、麺でも同じです)。
人に個性があるように、材料(麺)の破壊のプロセスにも個性があります。
上記の図で、麺質を説明すれば、以下のようになります。
強さ、強度は縦軸で高さが高いほど、硬い麺を表します。
従って、一番硬い麺はBになります。
横軸はひずみで、左にいけばいくほど、粘り強さを表します。
したがって、硬さはB>A>Cとなります。
また、粘り強さはC>A>Bとなります。
通常、われわれが多加水麺に求める応力線図は、上記のCで、硬すぎずに粘り強い麺質です。
次に多加水麺のベース用小麦粉には、タンパク質は高くなく、粘りの強いうどん用小麦粉を使う場合が多いので、下記にうどんの食感相関図を示します。
うどんの食感・相関図
カット工程
縦横比率が非常に重要です。
以下は、参考までに、4つのスープと成功店の関係です。
多加水ラーメンは、特に下記の淡麗系スープとの相性が良いのです。
(参考)ラーメンスープの4つのジャンルと成功店の関係
(参考)ラーメンの麺の種類
切刃サイズ | 麺サイズ横幅mm | タンパク質含有量 | 加水量 |
---|---|---|---|
8番 | 3.75 | 8% | 50% |
12番 | 2.5 | 9% | 46% |
16番 | 1.875 | 10% | 42% |
18番 | 1.6667 | 10.50% | 40% |
20番 | 1.5 | 11% | 38% |
22番 | 1.3636 | 12% | 34% |
24番 | 1.25 | 13% | 30% |
尚、今回のレジメでまだ十分に多加水、超多加水のつけ麺作りが分かりにくかった方は、いつでも当社にお問合せ下さい。
そして、今回のメルマガ読者に限り、うどん日本のサンプル粉を少し進呈致します。
尚、当社は今後とも会社を挙げて、多加水、超多加水ラーメンの研究、更にはスープとのマッチングの研究をラーメン学校と連携しながら進めていきます。
なかなか、期待している麺が出来ないで悩んでいる方はぜひ、声をかけて下さい。
今回の記事でまだ十分に多加水、超多加水のつけ麺作りが分かりにくかった人は、いつでもお問い合わせください。
当社は今後とも会社を挙げて、多加水、超多加水ラーメンの研究、さらには、スープとのマッチングの研究をラーメン学校と連携しながら進めていきます。
なかなか期待している麺ができない・悩んでいる方はぜひお声がけください。
個別での麺の試作などでもご相談を承っております