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美味しい麺作りに欠かせない適切な麺生地のカット法
美味しい麺を作るための最終工程が調整された麺生地を、食べやすい形状にするためのカット工程なのです。
麺生地を食べやすい形状にする為には、麺生地をカットする方法以外に、手延べソーメンとか、手延べラーメンの様に、麺生地を徐々に、細く細く引き伸ばす方法があります。
うどんであれば、氷見うどんとか、稲庭うどん、鴨川手延べうどんもこの製法で作られており、これらの手延べ方式の麺の特徴は、金属で例えれば、ピアノ線の様に細くても非常に麺生地の繊維が一方向に並んでいて、非常に強靭な組織になっているのが特徴です。
従って、食感も独特の硬さのある食感が特徴で、これらも人気のある麺として、市場で成功を収めているのです。
それ以外に麺生地を刃物でカットしないで麺線にする製法は、金属の細い穴から麺生地を押し出す韓国冷麺やスパゲッテイのような押出製法があります。
韓国冷麺やスパゲッテイにしても、独特の食感の麺になっており、1つの麺文化を形成しているのです。
この様に、麺の製法の最終工程である独特の食感を創り出す成型の1つがカットを含む麺の成型方法なのです。
今週のロッキー藤井の麺のカット方法の考察
今回のテーマ「麺のカット技術」は、製麺の最終工程「カット」の技術の差により、さまざまな食感の差を生み出すことが出来るということを説明します。
ほぼ半世紀にわたり、美味しい麺の製法に携わってきていかにテクノロジーの進化が麺の美味しさの進化を支えてきたのかを見てきました。
美味しい麺を作るためには、まず、麺生地作りがしっかりしていないとできません。
その麺生地を作る元になっているのが、小麦粉の製粉技術です。
我々は、水車製粉の時代を経て、製粉技術の進化のお陰で、価格の安い小麦粉を世界中から入手出来、更に、製麺技術を支えるさまざまな製麺機の技術革新により、比較的安価に高い生産性で麺作りが出来るようになりました。
麺は、小麦粉を練り、鍛えて麺生地を作ります。
うどん等は、その麺生地を薄く延ばして、板状の麺生地にした後、包丁で一本、一本麺線にカットするか、或いはスリッターのような切り刃で麺線にします。
ところが、刀削麺はそのような麺生地を薄く板状に圧延しないで、麺生地をまな板のような木の板の上に張り付けて、変形したナイフのような刃物で、麺生地の表面を一定の厚さ・幅で削いでいき、沸騰している釜の中に麺を直接、落としていきます。
刀削麺は、うどんのような麺生地の表面を麺棒やロールで圧延した麺生地とは全く異なり、麺線の表面が圧延されていないために、表面が皮の様になっておらず、麺生地の中身がそのまま麺線の表面になっているので、湯の通り非常に良く、茹で上がりが非常に速いのが特徴です。
食感もナイフで削いで麺線にしているので、独特の食感があり、麺の表面が削られたカット面になるため、出汁の乗りも非常に良いのです。
うどん店でうどんを提供する場合の一番大きな課題は、茹で時間の長いことです。
通常、うどんの茹で時間が10分以上ですが、刀削麺の場合は、ある程度太くても2~3分で茹で上がるので、ラーメンとほとんど変わりません。
茹で時間が短いので作業性も良く、洗い水も要らないので、これをもっと生産性が上がるような仕組みにすれば、麺ビジネスの1つのジャンルになれる可能性があります。
この様に、われわれハードの提供に携わる者の重要なテーマの1つとして、新しい食文化を創り出すことに大きな貢献が出来ることなのです。
うどんの歴史を再度ひも解いてみると
日本のうどんの歴史は、美味しさの追求と食べやすさの追求の歴史はであり、うどん文化そのものの進化と深く関わっています。
これは、単なるうどんだけでもなく、麺料理だけでもなく、全ての食べ物に共通する進化の歴史でもあります。
うどんの起源と初期の形態
うどんの起源は奈良時代(西暦710年~794年)に遡ります。
うどんの進化には、1300年~1200年前の長い時間の経過がありました。
当初、中国から伝わった「索餅(さくへい)」や「餺飥(ほうとう)」という小麦を使った料理がルーツとされています。
ただし、この頃の「うどん」は現在のような柔らかい麺ではなく、団子や太い麺のようなものだったとされています。
食べやすさの点では、現在のように簡単に噛み切れる麺状のものではなく、かなり手間がかかる形状でした。
平安時代~室町時代:麺状への変化
平安時代以降、小麦を伸ばして切る技術が発達し、現在のような麺線状のうどんが登場しました。
特に室町時代には「切麺(きりめん)」という名前で食されており、これが現代のうどんの原型とされています。
麺状にすることで、噛み切りやすく、汁と一緒に啜るという現代的な食べ方が浸透し始め、食べやすさが向上しました。
しかし、この時代にはまだ出汁文化がなく、出汁と一緒に美味しく食べられる様になったのは江戸時代で、長期の進化の過程が必要だったのです。
江戸時代:つゆ文化の確立と啜り文化
江戸時代には、だし文化が大いに発展し、うどんに合わせる「つゆ」の味付けが洗練されました。
そもそも白だしを作る材料から違い、さらに使用する調味料にも違いがあります。
関東では濃口醤油、関西では薄口醤油を使ったつゆが主流となりました。
この時代に、麺を啜るという日本独特の食文化が一般化しました。
麺の長さや柔らかさもこの習慣に合わせて調整され、食べやすさがさらに改良されました。
江戸時代には、さぬきうどんが発現しました。
それは、雨の少ない讃岐地方で栽培されていた小麦、塩、そして小豆島の醤油、更に観音寺沖の瀬戸内海で取れるいりこ(煮干し)と、うどん作りに必要な材料が全て揃っていたためだったのです。
このように食文化は、その土地で取れる食材と共に発展、進化を遂げたのです。
明治時代以降:製麺技術と出前文化の進化
明治時代になると、製麺機が導入され、均一な太さや長さの麺を大量生産できるようになりました。
これにより、麺の食感や柔らかさが安定し、誰でも食べやすい品質が提供されるようになり、さらに出前文化が広まると、うどんを自宅で手軽に食べる機会が増え、家庭のうどん文化も発展したのです。
さぬきうどんは、もともと手打ち技術が創り出す独特な食文化でしたが、製麺機が発明された後も、手打ちと変わらない麺を創り出す製麺機のニーズがあり、それに応える様に、われわれ製麺機メーカーが切磋琢磨して、手打ちに負けない美味しい麺が出来る製麺機の開発に取り組んだのです。
手打ちうどんにおける包丁切りと製麺機でのカット
うどんの包丁切りと製麺機による麺線カットには、作業工程、仕上がりの麺の質感や食感、そして製法上の特徴に違いがあります。
手打ちうどんにおける麺線カット(手切り)
麺打ち職人が、伸ばした生地を包丁を使い、手作業で切る伝統的な方法です。
特別なうどん包丁を使い、生地を一定の太さや幅に均等に切り分けますが、これには練習と技術が必要になります。
また、うどん生地は手早くカットし、茹でに入る必要がありますが、経験者でも1.5kgのうどん生地をカットするのに平均1分30秒ほどかかります。
職人の包丁技術によって断面がシャープに仕上がり、茹でた後にも麺の四辺が凹み、麺線がまっすぐでなく、ねじれた麺になる場合があります。
微妙な太さの違いが出ることで、よく言えば麺に「手作り感」があり、茹でたときにムラのある食感(もちもちとした部分や少し硬めの部分)が生まれるので、「職人の手仕事による麺の個性」として伝統や職人技の価値を伝えるとともに、名物うどんと評価される場合もあります。
但し、前回のメルマガでもお伝えしましたが、こういった個性や伝統は正確に受け継ぐのが大変難しく、店の伝統の味や後継者問題につながる場合もあるので、メリットとデメリットをよくよく理解しておく必要があります。
製麺機における麺線カット
製麺機における麺線カットには、手作業と同じ包丁切りカット方式と、ロール式の片薄刃の切刃による、押し切り方式があります。
当然、切刃による押し切り方式より、包丁切り方式の方が、カット断面がシャープに仕上がります。
包丁切り方式は、麺線を1本1本カットするのと比べて、生産性が劣るので、生産性を第一に考えるチェーン店の一部では、切り刃方式を採用している店舗もあります。
当社の製麺機「真打」は基本的に、包丁切り方式ですが、包丁カッター部分を外して、切刃による押切方式のカッター機と組み合わせて、使っている事例もあります。
真打の包丁カッターで麺をカットする場合、まずロールで生地を一定の厚さに伸ばし、刃先角3度のシャープなカッターで均一な太さに切り分けます。
自動化されているため、大量生産が可能で、麺の形状がほぼ完全に均一になります。
麺の断面も直角切りなので切り刃のカットに比べると切り口がシャープで、茹でた後もしっかりとエッジの立った麺ができ、非常に出汁のノリが良くなるのが特徴です。
太さが均一なため、茹で上がりも均一で、一連の流れをマニュアル化しやすい為、誰にでもすぐに安定した品質のうどんを作る事ができます。
さらに製麺機の場合、1.5kgのうどん生地を約20秒でカットできます。
お店のピーク時に製麺に追われることもなく、すぐにカットできるので切り置きも不要、もしくは切り置きをするとしても最低限の量を短時間置くだけで店を回す事ができるので、お客様に最高に美味しい状態の麺を提供する事ができるようになります。
美味しいうどん作りには麺の厚さと切幅の縦横比率がポイント
切幅と厚さの比率がうどんの完成度と美味しさを決定する重要な要素です。
また、同じ太さであれば、茹で時間が短いほど、美味しいうどんになっています。
うどんの麺の切幅と厚さ比率は、食感、茹で上がりの均一性、出汁・つゆとの絡み方、喉ごしなど、すべてに影響を与える極めて重要な要素です。
製麺時にこの比率を守ることで、うどん特有の魅力を最大限引き出すことができます。
一般的に、地域によっても麺の切幅と厚さには個性があり、さらに同じ地域でも店舗、メニューによっても異なる要素ではありますが、さぬきうどんのようにしっかりとした粘り強さともちもち感を出しながら、茹であがった麺のエッジが立ち、出汁やつゆとの絡みが良くなる黄金比率は、大和製作所では厚さ1に対して切幅が1.4と推奨しています。
ちなみに小麦粉の質によって、厚さ方向の膨張率は異なるので、確認しながら作業をおこなう必要があります。
厚さや切幅で、茹で時間・茹であがりの麺の状態が変化する
うどんの手打のプロがよく陥っている間違いは、厚さを厚く圧延して幅を細くカットしていることです。
こうなってしまう原因は、手打で麺棒を使って圧延する場合、グルテン組織の弾力があり反発が強く、蕎麦の様に簡単に薄く圧延しきれず、厚い生地のままカットする方が楽なので、そのままの厚みで幅を狭くしてしまうためです。
出来上がった生麺を茹で上げると、麺線の断面形状は、包丁の刃の入った2面は茹で釜の中で湯が通り易いので外側に向って膨れます。
圧延した2面は湯が通りにくいので凹むようになります。
そして2面は膨らみ、2面が凹む形状になります。
膨らんだ面は表面がつるつるして出汁がのりにくいという問題があります。
反対に薄く圧延して幅広くカットし、茹で上げると四辺とも凹み、角がシャープな良いうどんができます。
この様になれば、出汁ものりやすいです。
美味しいうどんを見分けるのは簡単で、食べてみる必要はありません。
茹でたうどんの麺を見るだけで簡単に分かり、見分け方は下記の通りです。
前歯で噛んで、噛み切れない、粘りの強いうどんほど良いのです。
麺厚の計測方法
職人の感覚ではなく、デジタル麺厚計で厚みを測定し、一定の厚さにする事が茹でにも影響する。
手打ちうどん職人の場合「手触りと感覚による計測」
職人は長年の経験と技術から、うどん生地を伸ばす際や麺を切る際に感覚的に厚さを確認します。
それに加えて簡易な測定器具を使う事もありますが、生地を伸ばしている段階で手の感覚を利用し、均一な厚さになっているかを確認し、手のひら全体で生地をなぞることで微妙なムラを感じ取ります。
また、生地を薄く伸ばした際、手に持ったときの「重さ」や「弾力」で厚さを確認します。
職人の感覚を直接反映するため、完全に均一な厚さを保つのは難しく、経験に依存します。
そのため、初心者には感覚の習得が難しい場合があります。
麺のカットも同じで、生地を切る際に包丁の動きや見た目を基準に厚さを測ります。
包丁で生地を切りながら、その切り心地や抵抗感で厚さを確認し、切った麺の断面を目視し、厚さや均一性を確認します。
生地を切る際、包丁が生地を切る「音」や「手応え」で厚さを確認する職人もいます。
精度を高めるために定規やスケール、ノギスなどの測定器具を使用する場合もあります。
製麺機での場合「正確にコントロールできるデジタル表示機能」
当社の製麺機には「厚延計」が搭載されており、うどん生地をロールにかけて圧延する度に、デジタル表示機能で厚さを1/10ミリ単位で正確に確認する事が可能です。
ですから、勘や伝えにくい五感で覚える必要がありません。
切幅は麺生地をカットする際の生地を包丁刃に運ぶベルトコンベアのスピードで調整する事ができます。
一度サイズが決まれば、当社のうどん用製麺機「真打」にはテレビのチャンネルのような切幅設定スイッチが3個ついており、3種類のオリジナルの切幅設定をする事ができるので、誰がカットをしても同じサイズに揃える事が可能になります。
例えば、スイッチ1に合わせた場合、かけうどん用の麺の太さになる。
スイッチ2に合わせた場合、ざる用の麺の太さになる。
といった風に店舗で自由に麺の太さを設定する事が可能になるのです。
圧延中は友粉、カット時は打ち粉「コーンスターチはNG カット前に打ち粉は使用しない」
うどんを圧延する際、カットをする際には打ち粉と呼ばれる粉を振る作業工程があります。
当社では、圧延時には「友粉(ともこ)」、カット時に使用する粉は「打ち粉(うちこ)」と呼び分けており、使用する粉も違います。
圧延時はうどんの生地と同じ小麦粉を使用し、カット時には湯に入れても粘りのでにくい加工澱粉を使用します。
この使用する粉の種類によって、作業効率や麺質の仕上がりに大きな影響を与えます。
さらには量、使い方によって、麺の滑らかさ、弾力、食感が変わるため、目的や作業環境に合わせた選択が重要です。
時々、加工澱粉が手に入らない場合、コーンスターチを使用する方もいますが、麺の食感を変えてしまったり、茹で釜を汚す原因にもなるので、なるべくコーンスターチではない方が理想的です。
麺線保存時の友粉と打ち粉の使い分け
カットした麺線を時間を置かないで、すぐに茹でることが理想ですが、やむなく置く場合は置き時間によって加水を少しだけ減らし、くっつき難くしたり、上記でも触れましたが、圧延時には「友粉(ともこ)」、カット時に使用する粉は「打ち粉(うちこ)」を使用します。
粉を打つ理由は麺生地や麺線同士がくっつかないようにする為なのですが、カットした麺を置くとどうしても麺線はくっつきやすくなってしまいます。
麺を切り置きしない事が理想ですが、やむなく置く場合は置き時間によって配合や量の調節が必要です。
どうしても、長時間置く必要のある場合は、麺線が乾燥しないようにして、冷凍保管することをお勧めします。
カットした麺をすぐに茹でる場合は打ち粉をする必要はありません。
なるべく友粉を払い落として茹で釜に投入しましょう。
やむなく切り置く場合は打ち粉を使用します。
生うどんのテイクアウトなどをおこなう場合は、しっかりと打ち粉を打つようにして下さい。