目次
はじめに
繁盛するための大切な「立地以外の本質」とは?#3の続きです。
インターネットやSNSが当たり前の時代、立地の良否は以前にくらべて、それほど大きな問題ではなくなっています。
生産性の高いビジネスが良い立地を奪っていく
今後のレストラン・ビジネスの未来を占ううえで、最重要課題となるのは「生産性の向上」です。これは生き残りの条件としても必須です。
お客さまを魅了し、感動を与え続けられる料理とサービスを提供し、その裏側ではITで武装し、利益が最大化するビジネス・モデルを追求し続ける企業像が見えてきます。ITの進化もいよいよ次の変革の時代を迎え、レストラン・ビジネスであっても、ITとの融合は切り離せないのです。
したがって、これからのレストラン・ビジネスの経営者に要求されるのは単に料理の世界だけに没頭するのではなく、広くあらゆる分野の理解と、それぞれの専門家を配下に置き、時代の大きな変化を先取りしながら、新しいチャンスにチャレンジし続けられる才覚です。
まず、社内にはITの専門家、イノベーション、マーケテイングの専門家、ホスピタリテイ、心理学の専門家、そして料理、科学、食品化学の専門家等、幅広い分野の専門家を擁するイノベーテイブな企業形態を取ることが欠かせなくなります。
同時にさまざまな強い専門分野を持った企業とのアライアンスが欠かせなくなるのです。そして、今までは、そのようなアライアンスは国内企業間が一般的だったのですが、これからは国を飛び越えて、世界的なレベルを持った強い企業とのアライアンスが欠かせなくなってきます。
生産性を高め続けることは、レストラン・ビジネスだけでなく、当社のようなビジネスもあらゆるビジネスにとっても、片時も忘れることができない重要課題なのです。
商圏分析
当社の麺専門店向けの商圏分析ソフトを作り上げ、私がお客様の商圏の分析を始めたのは、2004年4月からだったので、2023年4月で丁度19年経過したことになります。
その間、恐らく1万件を超える商圏分析を行なってきました。作り上げた時から、画期的な方法だと自負していましたが、この商圏分析で救われたお客さまの数は数えきれないくらい多いし、また、商圏分析のデータを無視して、無理な場所で開店し、既に閉店してしまったお客さまも数限りないと思います。
もっともっと商圏分析を有効活用すれば、お客さまの成功にもっと貢献できるのではと思う次第です。この業界で、このような商圏分析ソフトを持って、こんなにたくさんの件数を分析しているのは、恐らく当社だけであるし、お蔭で、この19年間で商圏分析に関するたくさんのノウハウが蓄積されてきたのです。
実際のソフトとデータを使って分析するのは、当社のスタッフですが、私はその1万軒すべてに目を通し、場合によってはコメントを付けてきたのです。万一、スタッフの分析の間違いがあれば大変なことになりますから、私は分析したすべての物件に目を通し、外国に来ていても、いつでもメールで送られた分析データを100%、落としなく目を通しているのです。
この15年間を通して感じるのは、生徒さんが依頼される物件が年々小さくなり、席数も小さく、狭い物件が非常に増えているのです。そして、以前よりも駐車場の足りない、難しい物件が増えているような気がします。
商圏分析で分かること
商圏分析では実に様ざまなことが分かりますが、最も大きい要素は人口動態で、商圏分析ソフトには直近の国政調査のデータが入っており、商圏内の昼間人口数、夜間人口数、年齢構成等で、これにより、駐車場が何台必要かどうかが分かるのです。
商圏エリアを半径500m以内の徒歩商圏、半径1km以内の自転車商圏、半径5km以内の自動車商圏の3つの商圏に分け、それぞれの昼間人口、夜間人口を分析します。
そして、半径500mの徒歩商圏で昼間人口が2万人以上いれば、駐車場なしで営業可能なのです。商圏分析を通して、分かるのは次の通りです。
①必要な駐車場台数
都心型立地でも、本来駐車場が不要だと思っている場所でも、実際は線路、幹線道路、川が商圏を分断して、駐車場が必要な場所がたくさんあります。分析結果より、席数に対して、駐車場台数が何割必要かの数字を表示します。
②昼間の人口密度、夜間の人口密度
地図上の色分けで人口の多い場所、少ない場所が昼間人口、夜間人口に分類されて表示されるので、その場所が、住宅地域なのか、商業地域なのか、或いは、混在地域なのかが、簡単に判断できる。
③飲食店の競争状態
その商圏人口をレストランの数で割ると、そのエリアの飲食店の競争状態が分かる。日本全体の平均値は164人/店で、世界で一番飲食店の競争が厳しいのが韓国で、この数字が84人/店、次がスペインで133人/店で世界で2番目に競争が厳しく、日本は世界で3番目です。従って、164人/店より多い方が日本全国平均より競争が緩く、この数字が小さいほど、飲食店の競争の厳しい場所になります。
④その商圏の年齢構成
商圏の人口と併せて、店舗出店の場合に重要な要素はその商圏の年齢構成です。例えば、20歳代が一番多い場所は近くに大学があるのが分かります。日本は高齢化が進んでいるので、ほとんどの場所で高齢者が多くなっています。
⑤ 人口総数と徒歩商圏、自転車商圏、自動車商圏ごとの人口分類
当社の商圏分析では、歩いて来店する徒歩商圏は半径500m以内、自転車商圏は半径1km以内、自動車商圏は半径5km以内のそれぞれの昼間人口、夜間人口、そしてそれぞれの男女の人数を特定します。徒歩商圏だけを対象にすれば、駐車場が不要で、その場合は徒歩商圏内の昼間人口が2万人以上必要です。
⑥ マトリックス地図で、ライバルの飲食店の位置が分かる
マトリックス地図とは、人口総数と昼間人口総数の差をわかりやすくする為に地図に色をつけたもので赤色の濃い部分は、昼間人口が多く、夜間人口が少ない場所、反対に青色の濃い部分は、夜間人口が多く、昼間人口の少ない場所で、黄色は昼間も夜間も同じ程度人口のいる場所で、いずれの色も濃いほど人口が多くなります。また、このマトリックス上で青い点で表示されているのが、ライバルの飲食店の位置になります。
⑦ 商圏が線路、幹線道路、川で遮断されている場合の正味の商圏人口
都心型立地では、商圏が線路、幹線道路、川で遮断され、一見昼間人口が2万人以上いて、駐車場が不要に見えても、実際は駐車場が必要な場合が多いのです。その場合は、地図上で遮断された正味の商圏を図示し、その人口を割り出し、必要な駐車場台数を引き出します。
⑧ 付録の統計データで、更に詳細な商圏情報が得られる。
数年前より、下記の付録の統計データを付け、更に詳細な商圏データを提供しています。それらのデータは半径5kmのターゲットエリア内、商圏が存在する県、日本全体と3つに区分して下記のデータを提供しています。
- 人口総数、男性、女性、有配偶者、昼間年少(14歳以下)、生産(15歳以上、64歳以下、老年(65歳以上)のそれぞれの人口
- 世帯総数、1人、2人、3人、4人、5人以上の世帯数
- 住宅状況、総数、持家、借家、共同住宅数
- 事業所数、全産業、小売業、食料品、飲食店
- 総合バランス、半径5km以内の事業所、昼間人口、有配偶者、持ち家世帯、高齢者、独り暮らしの県内、日本全体との比較(事例参照)
- 人口ピラミッド
- ターゲットエリア内事業所構成(世帯数と事業所数の割合)
- 昼間人口比率(下図参照)
- 世帯人員別構成(下図参照)
- 年齢3区分構成
良い立地の見つけ方
「立地」と「ビジネスモデル」には、深い関係があります。たとえば、全国的にチェーン展開しているある有名なラーメン店は、人口の多い都市型立地で成り立つ、40席タイプのビジネスモデルです。
同じく全国的に200店以上チェーン展開している有名なラーメン店は、郊外型の40席が基本的なビジネス・モデルです。
このように、ビジネス・モデルと立地は密接な関係があり、前者が郊外型立地を求めても決して成功せず、後者が都市型立地を求めても成功しないのと同じです。
したがって、あるビジネス・モデルで成功している店の商圏分析をしてみると、そのビジネス・モデルの特有の商圏特性が分かります。
どのようなビジネス・モデルで展開するかによって、立地選定は全く異なるので、今から始めようとするビジネスと近いビジネス特性を持った異業種の店の商圏分析を行なうと、始めたい店舗の商圏特性が見えてきます。
ようするに、同じようなライフスタイルを持ったお客さまを集めている異業種の店に注目することです。そして、戦略的に商圏分析を使う方法として、気になるライバル店の商圏分析をしてみることです。
そうすると、どのような商圏基盤の立地で勝負しているかが分かり、ライバルの戦略が透けて見えるのです。
また、自分が開店したい場所の商圏分析のポイントをずらしながら行ってみると、その商圏全体で、どこに真空スポットがあるのかが分かります。1カ所だけの分析ではわからなかったことがわかるようになり、ライバルがいなくて、独り勝ちが出来る商圏が存在していることが、たまに見つかることがあります。
また、商圏分析とあわせて、自分の足で歩いて調査したり、自動車で走り回り、自動車で行きやすい場所で、まだライバルが気づいていないような場所を見つけることができるのです。
商圏分析のデータと実際の商圏を比較することにより、商圏分析データの深読みが出来るようになり、その商圏についての理解が深まり、どこがスイートスポットであるか、だんだん分かるようになってきます。
そして、以上のことはいずれも、時間とエネルギーがかかることで、立地確保は命がけで行なうべき事柄なのです。
成功の鍵は「情熱」「戦略」「あきらめない心」
開業で失敗しない10ヶ条を紹介します。
最初に麺ビジネスにおいて、開業で失敗しない10ヵ条は次の通りで、開業での成功の10要素でもあり、麺ビジネスを開業するのであれば、自分自身に質問をしてみることをお勧めします。
情熱を持っているか?
素直でプラス思考、常に学び続ける
ぶれない一貫性
周到な準備
深い思考で負ける戦はしない
トップを目指す強い意志
他店の真似をしない独自性
際立つ個性
資金に余裕を持ち、初期投資を恐れない
決してあきらめない(ネバー・ギブ・アップ、忍耐力)
次に、どんなビジネスにおいても共通すのですが、ビジネスを始める人の心構えとして、重要なことは次の通りで、本気度とネバー・ギブアップ の精神が大切になります。
1.素人の個人で、かつ脱サラなどで麺専門店を開業する方々は、文字通り、人生を賭けた大勝負に挑んでいるわけです。今までの安心領域から逸脱して、自らリスクを取っての挑戦者です。
2.この場合の開業動機とは、「あきらめない理由」です。
そして、新しいことを始める時、自分に確認しておくことは「方法」ではなく、その「覚悟」です。
3.事業は知恵が足りないほど、お金がかかります。
そして、未来は今日の信念で変わります。感動や充実感は、限界の向こうにあります。うまくいく方法を考える前に、あきらめない決意をすることです。
4.決断できない時は、楽をしようとしている時です。
決断は、いかなる問題も楽しみに変えることができます。
5.成功者とは、自分の生き方を見出した人です。
夢がないと、他人がうらやましくなります。
6.利益より優先するものがないと、利益が得られません。
やりたくない時ほど、問題が大きく見えます。肉体的疲れは、休めば治ります。精神的疲れは、夢を持てば治ります。
7.最も難しい問題が、最も人を成長させます。
成功する人は、他人を笑顔にすることに集中し、成功しない人は、自分の利益に集中します。
8.どの道も本気で進むと、正解になります。
物の豊かさとは得ること、心の豊かさとは与えることです。成功するのは簡単です、成功するまであきらめないことです。
情熱の炎を燃やす燃料は夢であり、野望であり、妄想です。私には大きな夢があります。
それは、日本の美味しい麺文化を世界中に広げることです。美味しいだけでなく、健康に良い安全な麺料理を普及させたい。素晴らしい日本文化を添えて。
人間にとって一番の幸福は、人に必要とされることです。夢が大きければ大きいほど、困難であればあるほど、そして世の中に貢献する度合いが高ければ高いほど、情熱の炎は強く燃え盛ります。
夢があれば、前を向いて進み続けることができます。夢を失えばすべて消えてしまいます。大きな夢を持つことが情熱の源泉なのです。
さらに情熱の炎を燃やし続ける燃料は、屈辱感です。大きな夢を持てば持つほど、達成できない屈辱感も大きくなります。
なかなか、思った様な成果が出てきませんが、屈辱感こそ、野心、夢の入り口です。多くの人達に貢献する健全な野心、夢こそ、情熱の素であり、エネルギーです。
夢を持とう。できる限り大きな夢を。そこから情熱が湧き上がってきます。
夢の大きさが情熱の強さ。情熱の差は志の差。夢を実現するには熱い情熱が必要。
ビジネスを続けていくためには、開業から繁盛までに必要なルールや大切なことを自分に問うことが重要です。
こちらの記事では「開業で失敗しない10ヶ条」と「売れる店が大切にする10のルール」について解説しています
まとめ
この記事では、商圏分析でわかること、応用した立地の見つけ方や、心構えを解説してきました。
商圏分析で【勝てる場所】を見極める
近年、物件は狭く、駐車場が不足し、難しい立地条件が増えていますが、商圏分析を活用すれば、状況を正しく把握し、最善策を導くことが可能です。
商圏分析で分かる主なポイントをまとめると
- 必要な駐車場台数:人口動態から必要な駐車台数を算出
- 昼間・夜間人口の把握:住宅地なのか商業地なのか、データから一目瞭然で把握できる
- 飲食店の競争状態:1店舗あたりの人口比率でエリアの競争度を測定する
- 年齢構成:若者が多いか高齢者が多いかで、求められるメニューや価格帯が変わる。
- 徒歩・自転車・自動車商圏別の人口:500m、1km、5kmといった半径別に人口分布を解析し、駐車場の必要性を判断できる。
- ライバル店の位置:地図上に表示されるライバル店の位置から、どこが空白地帯(真空スポット)かを把握できます。
また、こうしたデータをもとに自分の足でエリアを歩き、車で走り回ることで、数字と現場感覚をすり合わせ、どこに出店すべきか、あるいは避けるべきかがはっきりします。
ビジネスモデルに合った立地を選ぶ
自分の業態に近い特性を持つ成功事例を参考に商圏分析を行うことで、理想的な立地条件が浮かび上がってきます。また、気になるライバル店を分析すれば、その戦略や商圏の強み・弱みが分かり、戦略立案に役立ちます。こうした試行錯誤は時間と労力がかかりますが、開業時に「勝てる場所」を見つけるうえで欠かせません。
最後、成功の鍵は「情熱」「戦略」「あきらめない心」
立地戦略や商圏分析は、ビジネス成功のためのツールにすぎません。最終的に重要なのはオーナー自身のの「情熱」と「あきらめない覚悟」です。
大きな夢や志が人を突き動かし、困難を乗り越える原動力になります。夢があるから情熱が生まれ、情熱があるからこそ努力を続け、成功を手に入れることができるのです。
コロナ後の飲食業界は、これまで以上に厳しく、変化の激しい時代に突入しました。しかし、IT活用や商圏分析、生産性重視のビジネスモデル、そして何より経営者の情熱とあきらめない心があれば、活路は必ず見出せます。
立地はビジネスモデルと不可分であり、分析や戦略で道は拓けます。麺ビジネスに限らず、これからの外食業界で成功するためには、「立地戦略」「商圏分析」「情熱」の三本柱を揃え、常に進化し続ける姿勢が求められているのです。