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第二章 なぜ、多くの人は立地で間違うのか?の続きです。
インターネット・ビジネスが全盛期を迎えていますが、インターネットで商品を販売するアマゾン等にとって、店舗はホームページになり、いかにホームページが分かり易いか、検索されやすいかが勝負になっています。
インターネットで少しでも多くの人たちの目に付くように、ネット広告が盛んになっているのです。
従って、インターネット・ビジネスにとっては、売店とか本社の実際の立地は、販売に影響を与える要素ではなくなっています。
どこに本社があろうと販売拠点があろうと、買う側からすれば、まったく関係ないのです。例えば、商品の品質、価格、買いやすさ、サービスなど、立地に関係ないところで、ビジネスの成否が決まっているのです。
そして、そのスピードは非常に早く、アマゾンが急成長したために、多くの書店、デパート、小売業が倒産しているのは周知の事実です。
このようなインターネット・ビジネスだけでなく、リアル・ビジネスにあたる飲食店もインターネットの影響を大きく受けるようになってきたのです。
例えば、飲食店の比較サイトができて、日本全国単位で、飲食店の優劣が点数で表示されるようになってきました。
この飲食比較サイトによる点数の効果は非常に大きく、高く評価された店舗へのお客さまの集中度の傾斜が大きくなり、評価されない店舗へはお客さんの減少が大きくなり、優劣が非常に早く決まっています。
その結果、最近は新規に開店した店舗の1年未満の閉店率が42~3%、3年未満の閉店率は72~3%もあり、うどんそば店、ラーメン店の平均寿命は約2.4年程度と極端に短くなっているのが現状です。
こんなに寿命が短くなっている大きな原因がインターネット、SNSです。今ではお客さまがSNSで拡散するので、繁盛するスピードも速くなり、ダメになるスピードも同じく非常に早くなっているのです。
恐るべきさぬきうどんの事例で述べたように、辺鄙な場所の方が、話題性があったりするのです。
ですから商品レベル、サービスレベルにおいてこだわった店の場合は、立地は繁盛において、それほど大きなファクターではなくなっています。
1.最高の立地戦略
私は、今後、飲食ビジネスにおいて生き残れるのは生産性の高い店であり、ジャンル別で言えば、
- ファースト・フード
- カフェ
- ファイン・ダイニング
の3つだと信じていますが、これらの立地も以前ほど最高の立地を求めなくなっているのです。
私が今後、ファースト・フードにおいて、模範にすべき事例だと思うのは、ハンバーガーのシェイク・シャックです。シェイク・シャックはNYで創業したのですが群を抜いて商品力が高く、サービスレベルも高いので、非常に人気があり1店舗当たりの売上もマクドナルドの約2倍と言われています。現在、世界中に急速展開を始めていて、日本にも既に13店舗が出店しているのです。
シェイク・シャックの創業者で、オーナーのユダヤ系アメリカ人、ダニー・メイアーはユニオン・スクエア・カフェやグラマシー・タバーンなど予約の取れない人気レストランをたくさん経営するレストラン・ビジネスの成功者であり、著書の「おもてなしの天才」ではサービスとホスピタリテイの違いに触れています。
このような魅力的なレストラン・ビジネスを作り上げると、立地は心配なくても良い立地を持っている大家から出店要請が舞い込むようになります。このようにグローバルで通用するようなビジネス・モデルを作り上げることが、立地に心配しないで、レストラン・ビジネスで勝ち残る王道ではないかと思います。
要するに、磨き込まれた魅力的なビジネス・モデルを完成することが、立地戦略の最も効果の高い方法で、他の追随を許さなくなるのです。
秀逸なビジネスモデルの構築こそが競争にも無縁で、永く成功する礎になるのです。
2.立地に関する基本的な考え方
都心型の家賃の相場は一般的に坪当たり最低では、1万円程度、高い所では7~8万円程度です。
家賃と売上はバランスすることが重要で、麺ビジネスの場合、家賃は売り上げの約7パーセント以内に収めるのが基本です。
従って、家賃が30万であれば月商は400万円以上、家賃が20万円であれば月商300万円以上、家賃が15万円であれば200万円以上が必要になります。
このように、家賃と売り上げのバランスを常に考えながら立地を選定していきます。
大都市の中心地を除けば、ほとんどの国内の店舗は郊外型立地になり、郊外型の立地で多くの人たちが失敗するのが交通量の多い幹線道路沿いの立地選定です。
うどんそば店、ラーメン店の立地として相応しくないのは、幹線道路沿いで、かつ車速の早い道路です。車の速度の速い場所は、麺ビジネスには適していません。
併せて、幹線道路沿いの出店は、外食大手がひしめきあっているので、競争も非常に厳しいのです。
逆に女性ドライバーでも楽に運転できる、車速の緩やかな道路が麺ビジネスに適し、生活道路沿いの車速の遅い場所が狙い目です。
幹線道路と生活道路との違いは歴然で、幹線道路は産業車両、大型トラックやダンプカーなどがどんどん走っており、反対に、女性ドライバーなどが乗用車で、生活のための買い物などに、のんびり走っているのが生活道路です。
ただし生活道路沿いでも駐車場台数は、商圏分析で割出された台数の確保が重要です。
よく失敗しているのが、幹線道路沿いへの出店と駐車場の台数の少ない店です。
特に平日の昼間は1人1台の乗車率で来店するお客さまが多いですから、幾ら店内で席数が空いていても、駐車場が満車では入れないので、結局は売り上げの上がらない店がたくさん有ります。
従って、駐車場はしっかり確保は必然で、駐車場に使うスペースは車1台に約7坪必要です。ですから50席の店を作るとしたら店の建坪は最低30坪から40坪は必要で、駐車場台数が最低30台ですから、駐車場だけで210坪となり、土地全体の面積では300坪が必要です。
郊外型店舗でのほとんどの失敗事例は、駐車場の不足です。
3.インターネット、SNS、AIで立地はどう変わるか
既に述べて来たように、インターネット、SNSの発達、進化で以前に比べて立地の良否はそれほど、レストラン・ビジネスにおいて大きな問題ではなくなって来ています。
今後、インターネットが現在の4Gから、ビッグデータを処理できる5Gの世界に突入すると、リアルタイムで多くのレストランの混雑状況まで、スマホで簡単に分かる時代になります。そうなると今まで大きな問題であったお客さまのドタキャンで、営業に大きな影響が出るようなこともなくなってきます。
要するに、食事をするお客さまの数と、レストランで調理する数のバランスが取れ、食材のロスなども大きく省けるようになります。
行列するレストランもなくなり、予約して行けば、すぐに食事ができ、待ち時間のロスもなくなり、飲食行動も非常に効率的になることが想定されます。
すると、立地についても、自分の求めるお客さまのたくさんいる場所への出店という、外食本来の姿に戻るのではと思います。
このコンセプトでこのような店を開き、こんなライフスタイルのお客さまを集めたいとなれば、AIによって、最適な場所が導き出されるようになるのです。
そして、レストラン・ビジネスの競争がもっと高度化されて、AIで判断しきれないような独創的なレストラン・ビジネスが多くの人たちを魅了する可能性も出てきます。
従って、常にAIの裏をかくようなイノベーテイブなレストラン・ビジネスも今後の可能性は大きく、レストラン・ビジネスがもっともっと高度化し、複雑になっていくのです。
例えば、先ほど説明したシェーク・シャックにしても、過去はカフェとファイン・ダイニングで大成功したレストラン企業なのです。
カフェとかファイン・ダイニングで大成功した会社が、より簡単なファースト・フードで勝負したので、他のもともとファースト・フードで出発している会社は競争にならないのです。
要するにこれからは競争のレベルが全く異なってくるのです。
今後、上流の外食で成功した企業が、下流のファースト・フードに本気で乗り出すと、非常に強いビジネスを構築できるのではと思います。
特に、ホスピタリテイ・レベルの高いホテル業界から外食への参入は出てくるのではと、思います。
4.ウーバー・イーツで立地戦略はどう変わるか?
アメリカから始まった配車アプリが世界中で成功し、地域によっては同じカテゴリーの会社が次つぎと立ち上がり、大成功を収めています。
そのウーバーとか同じカテゴリーの会社が、今、外食産業のデリバリー・ビジネスに突入しています。ウーバーが基本的に認められていない日本でも、ウーバーのデリバリー部門のウーバー・イーツが料理のデリバリーを始め、急激にエリアを拡大しています。
都内23区を始め、まだ中心都市部だけですが、神奈川、千葉、埼玉、名古屋、京都、大阪、兵庫、福岡とエリアを次々と広げているのです。
ウーバー・イーツの登場で、ウーバー・イーツのデリバリーに特化したレストランもでき始めています。
今まで、レストランが自前でデリバリーをやらなければいけなかったのが、自分では何も投資せずに、ウーバー・イーツがデリバリーを一手に引き受けてくれるのです。
こうなってくると、立地も選ばなくなり、客席も不要になり、キッチンだけの装備になるので、投資も少なくなります。その上、接客要員も要らないので、何もかもが非常に楽になるのです。
ウーバー・イーツが展開しているような大都市圏においては、今後とも、ウーバー・イーツに特化したレストラン・ビジネスがますます増えてくる可能性が高いのです。
しかし、この場合も、常にお客さまのフィードバックの反応がSNSで誰でも見られるようになり、ウーバー・イーツ内での競争は厳しくなることが想定されます。
また、ウーバー・イーツは配達員が自転車か、オートバーで、背中に背負った箱の中に料理を入れて運ぶので、振動などで盛り付けが乱れないような対策も重要で、デリバリーに向いた料理(配達時間がたってもおいしい料理)と盛り付けのきれいさ、料理をワンウエーで配送するための容器が重要な要素になります。
ウーバー・イーツの出現により、レストラン業界の競争の仕組みが大きく変わることが想定されます。
5.生産性の高いビジネスが良い立地を奪っていく
今後のレストラン・ビジネスの未来を占う上で、最終的に重要な課題は生産性の高さで、これは生き残りの条件としても必須です。
お客さまを魅了し、感動を与え続けられる料理とサービスを提供し、その裏側ではITで武装し、利益が最大化するビジネス・モデルを追求し続ける企業像が見えてきます。
ITの進化もいよいよ次の変革の時代を迎え、レストラン・ビジネスであっても、ITとの融合は切り離せないのです。
従って、これからのレストラン・ビジネスの経営者に要求されるのは、単に料理の世界だけに没頭するのではなく、広くあらゆる分野の理解と、それぞれの専門家を配下に置き、時代の大きな変化を先取りしながら、新しいチャンスにチャレンジし続けられる才覚です。
まず、社内にはITの専門家、イノベーション、マーケテイングの専門家、ホスピタリテイ、心理学の専門家、そして料理、科学、食品化学の専門家など、幅広い分野の専門家を擁するイノベーテイブな企業形態を取ることが欠かせなくなります。
同時にさまざまな強い専門分野を持った企業とのアライアンスが欠かせなくなるのです。
そして、今までは、そのようなアライアンスは国内企業間が一般的だったのですが、これからは国を飛び越えて、世界的なレベルを持った強い企業とのアライアンスが欠かせなくなってきます。
生産性を高め続けることは、レストラン・ビジネスだけでなく、当社のようなビジネスもあらゆるビジネスにとっても、片時も忘れられない重要課題なのです。
第四章 立地戦略の成功事例、失敗事例に続きます。